あちこち旅日記

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行列店と人気テーマパークの罪

 行列店というといかにも繁栄のシンボルのように感じます。閉塞している日本経済の中でも元気の源と思われていても不思議ではありません。しかし、こうした行列店こそが、見方によっては日本経済の低迷の原因を作っているかもしれないという話です。



 まず、経済学の価格理論から見れば、価格は需要と供給によって決まります。しかし、政府などが価格統制をし、本来あるべき水準より価格が低く抑えられた場合、需要が供給を超過し、待ち行列が発生します。この待ち行列は、行列を作っている客にとって時間というコストを生みます。研究者たちは概ね待ち行列を1時間当たり2500円の時給換算しているようです。つまり1000円のラーメンを1時間待って食べると、3500円払っているのと同じことになります。最低賃金1000円の人でも2000円払っているのと同じです。



 一方、店側にとって本来得られるべき収入が得られないという機会損失を生じさせます。結局、この待ち行列という「労働」はGDPに反映されませんので、経済全体にとっても機会損失が生じていることになります。行列の経済損失についての具体的な試算結果を見たことはありませんが、香港の研究ではレジの行列だけでも年間3000億円近くの損失になるそうです。これにテーマパーク、銀行のATM、タクシーの列待ちやコンサートのチケット販売待ちやコールセンターの待機時間などを加えると数兆円、いやもう一桁多い損失が日本で生じているかもしれません。「価格統制は悪」という考え方はこうした価格理論を根拠にしています。


 最近では、全国旅行支援が類似の例になります。補助金の分安くなったことで需要が急増し、電話やネットがつながらないという「待ち行列」ができました。便乗値上げへの批判が集まりましたが、残席数が少なくなり割引運賃や客室がなくなり結局値上げが起きるのは当然です。それすら便乗値上げだといって取り締まれば、結局待ち行列という報酬ゼロの労働が増え、マイナスの経済効果を生むことになっていたと考えられます。


 そもそも行列店の場合、政府による価格統制が原因ではなく、自らの意思(あるいは周囲からの無言の圧力)で価格を低く抑えすぎているために行列が生じています。「値上げをしたら昔からのお客様に申し訳ない」という店主の方もいますが、裏を返せば「値上げしたら反発をくらう」との恐怖心が値上げを難しくしています。


 社会全体でも「値上げが悪」という風潮がはびこっているという事情もあります。メディアの報道が偏向しているのかもしれません。結果的に「経営努力」とは名ばかりで、実際にはここ30年の間は値上げを回避するために、従業員の賃金を低く抑えたり、サービス残業を強要したり、場合によっては下請けいじめをする企業が横行してきました。


 確かに競争力の弱い企業は、原材料高という理由で値上げすることは難しいでしょう。たからこそ、真っ先に値上げをすべきなのが、こうした行列店なのです。行列店が値上げすれば、他の店にも少し客が流れ、追随値上げする余力が出てくるはずです。


 同様に経済低迷の元凶となっていると考えられるのが、人気テーマパークの価格戦略です。土日などの繁忙期には長蛇の列ができ、人気アトラクションの待ち時間は長くなりがちです。しかし、この待ち時間もパーク側の収入の機会損失だけではなく、入場者にとっても無報酬の行列待ちの時間を作り出しています。実際に、東京ディズニーランドの入場料は世界のディズニーランドの入場料の中で著しく安いことで有名です。値上げをした方が入場者数が抑えられてもっと楽しめるという意見の方が私の周りには多数います。年間パスの販売停止が発表された際は、ディズニーファンたちは喜んでいました。中には行列待ちの会話もデートの楽しみという方もいるかもしれませんが。


 「これだけ働いているのになぜ賃金が上がらないのか」という声をよく聞きますが、企業が値上げできないことが最大の理由であることはいうまでもありません。しかし、その元凶が値上げのリーダーシップをとるべきでありながら行動しない行列店の存在、さらにその背後には値上げを嫌う消費者がいて、賃金が上がっていないという「消費者が自分で自分の首を絞めている」状態にあることに多くの方が気がついていません。


 悪いのは値上げでなく、「経営努力」という無責任な言葉を用いて値上げを悪とする考え方です。「インフレだから賃上げを」という前に、「値上げできる企業は率先して値上げして従業員に還元を」というのが正しい考え方ではないでしょうか。行列の待ち時間が減れば、無駄な経済活動が減少し、経済成長にもプラスになるはずです。日本の物価が世界でも割安になっている今こそが考えを変えるチャンスです。


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