あちこち旅日記

乗り物好きの旅行日記。コスパのよい贅沢な旅がモットー。飛行機、鉄道の搭乗乗車体験記やグルメ情報をご紹介します。

食品ロス問題を科学的に考える

 皆様、明けましておめでとうございます。今年もぜひご愛読のほどよろしくお願いします。
 
 昨年末に世界一周旅行に行った際には各地でのラウンジ訪問も楽しみました。機内食やラウンジでは飲み食い三昧で、かなり体重が増えてしまいました。


 ところで、ラウンジにある食材で食べ残したものはどうなっているでしょうか。やはり、時間が来ると廃棄してしまっているのでしょうか。ふと食材ロス問題が頭をよぎり、せっかくなので年初のご挨拶代わりに考え方をまとめてみました。新春早々、ハードなテーマで恐縮ですが、よろしくお付き合いください。




 私は決して裕福な育ちではなく、幼少時から戦中派の両親に食べ残しはよくないとしつけられてきました。また、学校でも給食を残すとよく𠮟られました(最近の学校では、無理に食べさせなくなっているようですが、当時は無理に完食させられていて、給食嫌いになってしまいました)。


 近年では、食品ロス問題がいろいろ論議の対象となっているようです。中でも、①食べ残し廃棄された食品の焼却が環境破壊につながる、②貧困のために満足に食事ができない方のことを考えろ、というのが重要な論点のように思えます。


 これらは一見するともっともなように思えます。しかし、経済学的なアプローチからはいくつかの疑問を感じます。


廃棄された食品は環境破壊につながるのか


 まず、食べ残した食品を廃棄・焼却処分することの問題を考えてみましょう。我が家でも、生ごみの収集日まで時間がある時は、特に食べ残しがないように気を使います。確かに、一家庭の問題としては、食品廃棄は環境対策として好ましくないのはあきらかです。


 一方、社会全体として考えた時はどうでしょうか。環境問題を指摘する方は、廃棄された食品を焼却する際に温室効果ガス(CO2)が排出されることを問題視するようです。しかし、食品は究極的には植物性の原材料に由来します(動物性のものであっても、飼料は植物です)。植物の成長に際しては光合成でCO2が分解されるため、カーボンニュートラルということになります。この考え方がおかしいというのであれば、プラスチック製ストローに替えて紙ストローを使っている某チェーン店の取り組みも嘘だと否定されてしまうことになります。


 また、残さずに食べても結局は体重が増えてしまい、ダイエットが必要になるのであれば話は違います。脂肪を燃焼すれば、結局温室効果ガスが発生することになります。


 こう考えていくと、食品廃棄の抑制が地球温暖化対策にもなるという考え方は説得力を欠くことになります。


 不揃い品を加工用に回すという取り組みも行われています。また、有毒物で汚染されたコメを原料にした糊も売られています。こうした取り組みも経済合理性はありますが、カーボンニュートラルという観点から見た場合には、前述の通り意義を感じるものではありません。




満足に食事ができない貧困層を助けるのか


 次に、満足に食事もできない貧困層のことを考えろ、という議論です。これも一見するとごもっともな話です。実際に、ある食品スーパーが閉店時に売れ残った商品を廃棄するならばと無償提供したり、賞味期限切れ寸前の加工食品を寄付し感謝されている話を聞きます。


 食品スーパーやCVSにとっては欠品を出すということは業務上大きなリスクです。ましてやレストランで材料がないというのは許されません。余裕を持って仕入れを行うため、一定の食材ロスが出るのは不可避です。もちろん、彼らもビジネスである以上、食材ロスをできる限り少なくすることは重要であり、マネージャーの腕も見せどころです。こうした中で、残った食材を廃棄することなく、貧困層に提供することは頭が下がる思いです。


 しかし、これを皆がしたら売上が減少し、経済は回らなくなるのはいうまでもありません。また、肥満大国が食材の大量廃棄をするくらいなら食糧難の国に回せというのも言葉でいうのは簡単ですが、それを提供する仕組みを作っていくのは容易ではありません。


 そこで出番が来るのが経済学です。


   そもそも食料が十分あるのであれば、貧困層が食品を買えないのは所得分配の問題であって、食品ロス問題ではないと考えるべきです。



食材ロス問題への対応が食糧難を生む可能性


 では、皆が食品ロスをなくそうとすると何が起きるか考えてみましょう。まず食品(農産物)の消費量(需要)が減少し、価格が下落します。一見すると、貧困層でも食品が入手しやすくなるように思われますが、いずれ逆のことが起きます。価格下落に対応して農家が作付けを減らすことで、いずれ農業生産が落ち込み食品価格が上昇し、貧困層が買えなくなります。生産量が減少すれば、それだけ消費できる量が減るのは当然です。


 これと似たことが今起こっています。パリ協定の発効により原油の需要が落ち込むと皆が予想したことで、何が起こったのでしょうか。当初は原油の先物価格は下落しましたが、コロナ禍の影響もあり産油国による油田のメンテナンス投資が十分でなく産油国の生産能力が大きく落ち込んでしまいまい、原油価格は大きく上昇しました。需要が落ち込むのがわかっていれば、増産のための投資を行うはずはありません。その後、ロシアによりウクライナ侵攻もあり、原油価格がさらに急騰し、各国の物価高がさらに進んだことは皆さまご存知の通りです。


 地球温暖化対策を進めるためには、原油の消費量を減らすことが急務ですが、日本ではインフレ対策のために電力やガソリンへの補助金を増やしてしまっています。また、あれほど温暖化対策に積極的であったアメリカのバイデン政権でさえ原油増産を産油国に求めるなど、地球温暖化に逆行する動きを始めてしまっています。


需要の削減ではなく供給増が貧困対策に有効
 貧困層に食料がいきわたるために、食品ロスを減らせばよいというのはもっともなように見えて、実は逆効果をもたらしかねません。
 しかし、農産物や食品の生産コストを大幅に引き下げ供給を増やし値段を大幅に安くすれば、世界中の貧困層がもっとたくさん廉価で食品を購入できることになるでしょう。
 誰もが廉価で食品を購入できるようにするためには、食材ロスを減らすことよりも、生産コストを低下させることでふんだんに供給を増やし価格を引き下げることの方がはるかに合理的です。生産量が増えれば、おのずと消費者に行きわたる量が増えるのは自明の理です。
 その一つの方策が、農業生産の大規模化と大幅な生産性の向上であると思われます。高齢化の進展で、農業を続けられなくなる方が増え、かつ農村部の人口減少で過疎化が深刻になる今こそこれに着手できる好機ではないでしょうか。そのためには株式会社に農地保有を認めることも検討すべきだと私は考えます。
 一方で、これは弊害も伴います。大幅な農産品価格の下落に伴い、農業を続けられない農家が続出することになりかねません。生産の増加にもかかわらず、貧しさに窮する農家が出てくるかもしれません。また、株式会社の農地保有には否定的な意見も多く存在します(これもいずれ論じたいと思います)。生産が増えれば、食品が売れ余り食品ロスも増加します。しかし、環境問題にならないのであれば、貧困対策としての食品ロスの増加は容認してもよいのではないでしょうか。
 貧困対策と農家の保護は、実はトレードオフの関係にあります。言い換えれば、過剰な農家の保護が食品が買えない貧困層を作り出してきているともいえます。
 でも、ここが本来すべき議論の出発点ではないでしょうか。食材ロス問題は経済問題ですが、多くは観念的なものにとどまり、政府や政治家たちの議論も経済学を無視した単なる帳尻合わせに終始しているように思えます。


環境活動家にはきちんと経済学を勉強してほしい
 地球温暖化問題といえば、環境活動家のグレタ・トゥンベリさんを思い出します。2020年1月に当時のアメリカのムニューシン財務長官が、グレタさん(当時17歳)に対し「脱化石燃料を訴える前に大学で経済を勉強してほしい」と述べ、これに対しグレタさんが、科学を理解するのに「学位は必要ない」と反論した件が有名になりました。当時の報道は、ムニューシン長官が大人げないかのようなものが多かった感があります。しかし、今考えればムニューシン氏の発言は本当に的を射ていたと思います。
 きちんと経済学に基づいた地球温暖化対策の議論が行われていれば、今日のような温暖化対策の逆行する政策は回避できたかもしれません。むしろ、経済学を無視した感情論的な地球温暖化論議が、原油高で立場を強くしたロシアによるウクライナ侵攻の原因になったのだとしたら、大変な残念なことです(最近グレタさんおとなしいですが、どうしているのかな)。


日本人の経済リテラシーをもっと向上させる必要
 いずれにしても、我が国では政策決定に当たり経済学的アプローチがあまりに軽視されている感があります。政治家の無知はいうまでもなく、官僚たちも法学部卒や理系の事務官や技官が部分均衡的な議論に終始し、市場原理を無視した政策が目立ちます。また、経済学とは何たるかも知らずに役に立たないものだと思っている国民も少なくありません。
 中学高校でも経済の授業が十分に行われているとは思えません。社会科の先生方も、文学部や法学部の出身者が多く、経済の知識が十分とはいえません。公民や政治経済、現代社会でも経済について触れるのはほんのわずかです。高校生の大学受験の勉強でも国公立志望者以外は関心がありません。私立文系では政治経済や現代社会を選択できない学校がほとんどで、ましてや私立理系は全く勉強しません。これでは国民の経済リテラシーが向上しないのも無理ありません。
 最近、中学高校における家庭科の授業で金融教育が必須になりましたが、家庭科の先生方が十分な経済学の知識をお持ちとは思えません(そもそも数学が苦手なので家庭科の先生になった方も少なくないようです)。国民の経済リテラシーを上げていかないと、誤った政策判断が国民を困窮させかねず、強く危惧しています。


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