あちこち旅日記

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中国による日韓へのビザ発給停止の背景にある経済問題


 毎週土曜日は、原則として都内の身近な街の魅力を皆さまにお伝えすべく、街の歴史や見どころ、グルメ情報などを発信していこうと考えています。今週は江古田を予定していましたが、日韓における中国からの到着旅客に対する水際対策の強化に反発した中国が、1月11日より日韓両国に対しビザ(査証)発給を停止する報復措置に出ています。今週は、急遽予定を変更してこの問題について触れたいと思います(江古田は来週報告します)。


 多くの報道では、欧米でも同種の水際対策が行われているにもかかわらず、日韓両国が報復の対象になったことに対して、「近隣国なので看過できなかった」「これまでのゼロコロナ政策が間違っていたとの誤ったメッセージを国内向けに与えないため」などの説明が行われています。しかし、私は経済面の視点から今回の動きを考えてみました。



1.ビザ免除は通常相互主義で行われるが・・・・
 そもそも、ビザの免除措置については互恵の精神から、相互主義で行われるケースが多くなっています。しかし、国力、特に経済力に大きな違いがある場合は、経済力の弱い国が強い国に対して一方的にビザを免除することは珍しくありません。


 長らく社会主義体制にあった中国は、観光でも対外開放に消極的でしたが、改革開放政策のもとでこれを見直し、ビジネス目的の短期訪問の自由化も併せて進めてきました。当初は、経済特区(深セン、珠海、厦門、汕頭、海南島)におけるアライバルビザの発給から始まり、2000年代に入ると一気に開放政策を加速させました。まず、手始めに行ったのが、経済面での結びつきの強い日本人に対する短期訪問のビザ免除措置でした(ほかに、シンガポール、ブルネイに対しても実施)。当時、日本はまだ中国人の観光客受入れすら自由化しておらず、中国は相互主義にこだわらず一方的に日本人に門を開いたわけです。


2.経済力が弱い国が一方的にビザを免除するのが常


 同様な例はアジアの多くの国でも見られます。日本のパスポートでビザなしで渡航ができる都市の数が世界最多であることが知られていますが、これは日本人による犯罪が少ないなどの実績に加えて、日本経済の強さを反映したものであったことは言うまでもありません。


 アジアの国の所得レベルが上昇し、日本との経済格差が縮小したことでオーバーステイのリスクが低下したことや、日本政府によるインバウンド観光の振興策により、日本をビザなし訪問できるアジアの国は増えています。しかし、ベトナム、フィリピン、ラオスなどのアセアンの低所得国では日本人のビザなし訪問はできますが、これらの国からの日本へのビザなし訪問は現在でも認められていません。


3.大国では相互主義にこだわる国が多い
 それでも、経済格差が大きいにもかかわらず、相互主義にこだわる国は珍しくありません。例えば、ブラジル、インド、ロシア、パキスタンなどが挙げられます。こうした国では、ビザを課すことで観光客誘致の機会を失うなどの経済的なデメリットを覚悟した上で、相互主義にこだわっています。いずれも大国であり、プライドが許さないのでしょう。ロシアはウクライナ侵攻後に韓国との関係が悪化してしまいましたが、日本との間では相互にビザ取得が必要な一方で、韓国との間ではビザ免除協定を有していました。


 なお、日本はパキスタンとの間では、かつては相互免除協定を有していましたが、不法残留者が増加したことを受けて、日本政府は1989年に協定を破棄しました。これを機にパキスタンも日本人に対してビザ取得を義務付けましたが、弱みがあったことは否めません。現在では観光ビザの発給料金をわずか100円に抑えるなど、相互主義は形骸化してしまっています。


4.経済力が高まり、日韓の足元を見た中国
 では、なぜ中国が日韓に報復措置をとったのでしょうか。中国にとって、報復措置によって得られるメリットはほとんどありません(反日ムードを高めたり日本を困らせることで、春節の日本旅行を楽しみにしていた自国民の不満をそらすくらいのことしか思いつきません)。私は、中国の経済力が高まってきたことを受けて、これからは相互主義を主張する内外向けのメッセージが込められているのではないかと感じています。また、日韓両国では中国人観光客の「爆買い」への期待が高まっており、中国が強気に出れば、日韓の国内世論が後押しするかたちで翻意する可能性があると踏んだのかもしれません。実際に、中国人に対する水際対策を強化しようとしたタイでは、観光業界からの反発で二転三転した後、なし崩し的に水際措置が撤回されてしまいました。


 では、なぜ欧米に対してはこうした強硬な措置に出なかったのでしょうか。まず、日韓のように中国人の爆買いに依存しておらず、揺さぶりの効果が小さいと判断したことが考えられます。もちろん、欧州ではシェンゲン協定により一か国が水際対策をしても効果がないため、特定の国による水際対策に目くじらをたてる必要がありません。あつれきの多いアメリカに対しては、関係をこれ以上悪化させたくないこともあったと思えます。そして欧米に対する畏敬の念もあるかもしれません。


5.問題は中国が透明性のある情報開示をしないこと
 水際対策は、自国よりも感染率が高い国に対しては強化し、低い国に対しては緩和するというのがそもそも合理的です。中国も、ゼロコロナにこだわっていたうちは、極めて厳格な水際対策を実施していたわけで、ここへきて逆のことをしているのは自分勝手と言わざるを得ません。日本では毎日20万人前後が感染しているので、人口が10倍以上の中国で毎日200万人以上が感染していているのであれば日本の水際対策の強化は説得力があります。実際に日本に到着した中国からのフライトでの感染率を見ると、さらにもう一桁上の毎日数千万人の新規感染が出ている可能性も否定できません。警戒を解く一つの目処は空港検疫での感染率が1%を下回ることでしょう。欧米と比べても累計感染者数が少なく、集団免疫ができていない日本では欧米よりも大きなリスクにさらています。


 しかし、中国における実際の感染率が日本より低いのであれば、変異種が報告されない限りは日本の水際対策は説得力を欠きます。問題は、中国がグローバルスタンダードで情報開示していなことにあり、中国が反論したければ透明度の高い情報開示をすべきです。


6.経済力が向上した中国になめられた日韓両国
 結局のところ、今回の騒動は中国の経済力が向上し、日韓両国がなめられているということを示唆しています。政治問題というよりは経済問題と言えるでしょう。中国による報復が、中国人に媚びないとやっていけなくなっている日韓経済のぜい弱さを象徴しているように思えて、情けなさを感じるところです。


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