あちこち旅日記

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メディアに報じて欲しいイスラエルの真実

 イスラエルとガザを実効支配しているハマスとの紛争が連日報じられています。この問題で、どちらかに肩入れする意見が多数あふれていますが、双方にも言い分があり、水掛け論になるだけで問題の解決には結びつきません。そもそも対立を作り出した張本人は英国であり、この意味では両者とも被害者といえるでしょう。




 パレスチナ問題については、NHKがわかりやすい解説をしていますので、以下ご参照ください。




 それよりも、イスラエルについてメディアがあまり触れない重要な問題があります。今回、こうした問題について考察してみたいと思います。


テルアビブは本当に安全なのか


 イスラエルから邦人を退避させるため日本政府が手配したチャーター機1便にわずか8名しか搭乗しなかったことが報じられています。韓国軍機に日本人が51名搭乗したことと比較され、3万円の費用負担を求めたことへの批判まで出ています。


 もっとも、テルアビブ空港からの国際線は本数こそ減っていますが利用は可能であり、海外への退避が難しいわけではありません。また、駐在員やその家族などがこの程度の費用負担に応じられないとは考えられません。


 批判が高まったことを受けて、政府が自衛隊機を派遣し、在留邦人の退避のための輸送を行いました。今回は無料とするなどまさにその場しのぎの迷走状態です。しかも、韓国人20人を搭乗させていると報じられています。韓国への恩返しは悪くないと思いますが、現地の日本大使館のホームページを見ても、昨日時点で在外邦人に対して以下のような注意喚起にとどまり、切迫感は感じられません。


 https://www.israel.emb-japan.go.jp/files/100565207.pdf





 ここで重要なのが、イスラエルの中でも駐在員の多いテルアビブやエルサレムの安全性がどうなっているかです。


 外務省は10月14日付けで、ガザ地区の危険情報をレベル3(渡航中止勧告)からレベル4(退避勧告)に、その他レベル1(注意勧告)だった地域をレベル2(渡航延期勧告)に引き上げたのに続き、10月18日にもレバノンとの国境沿いをレベル3(渡航中止勧告)からレベル4に、ヨルダン川西岸地区をレベル2からレベル3に引き上げましたが、エルサレムやテルアビブはレベル2のままになっています。


 イスラエルに関する外務省安全情報は以下外務省ホームページをご参照ください。




 本当に危険かどうかは日本にいてはわからず、外務省や在外公館の判断に従わざるを得ません。外務省の判断に基づけば退避までは不要であり、渡航についても「是非を検討してください」としているものの、中止を勧告しているわけではありません。自国民の避難に軍用機まで送り込んだ韓国の方がむしろ過剰反応ともいえ、このタイミングでの政府救援機の派遣は不要だったと思います。


 安全第一であれば、早めの退避を勧めることは間違ってはいませんが、退避することで起こる問題も考えないといけません。例えば、チェルノブイリ原発事故の際は、遠く離れたロンドンから駐在員を退避させヒンシュクを買った日本企業がありました。一方、福島原発事故の際には、職務を放棄し東京から真っ先に逃げ出した外国人社員に対して批判が出ていた企業もあったと聞きます。かつての911事件でも多くの企業は一律に海外出張をひかえ、多くのビジネスチャンスを逃してしまいました。必要以上の安全性にこだわり、多くの信用のビジネス機会を失うことも覚悟しないといけません。


 我々が知りたいのは、外務省や現地公館の判断を信頼して受け入れるべきかどうかの判断材料です。外務省や現地公館判断が正しければ、現時点での有料での手配は妥当ですが、危険が差し迫り邦人保護が難しくなるのであれば、(強制に近い形で)退避を勧告すべきであり、残留邦人を減らすためにも無償での航空座席を提供することが検討されるべきだと思います。しかし、切迫した情勢でなければ税金の無駄使いです。この点で、アフガニスタンと事情は大きく異なります。


 私は、4年前にイスラエル(テルアビブとエルサレム)を訪問した際、現地の治安情勢を検討しましたが、以下に挙げるようにテロや戦争のリスクはある程度見切れるうえ、犯罪リスクは欧米の大都市よりもはるかに低く、当時は渡航には問題ないと判断しました。イスラエルの安全性に関しては、むしろ外務省判断は相対的に慎重な方だというのが実感でした(欧米やアジア諸国など日本企業の利益が大きい地域の判断こそむしろ甘すぎると感じます)。





①ガザからのミサイルは年間数百発から数千発も発射されているが、性能が悪く多くは国境付近に墜落するか、イスラエルが誇る迎撃システム(アイアンドーム)で迎撃可能。ここ数年大都市中心部に着弾したことはない。


②テルアビブ市内では至るところに強固なシェルターが設置されており、ガザからミサイルが飛来しても着弾するまでの時間(90秒程度)に避難すれば安全は確保できる。


③パレスチナ自治政府の主流派で穏健派のファタハが支配するヨルダン川西岸地区(エルサレム旧市街または東エルサレムを含む)については、テロに注意する必要があるが、標的となるのはパレスチナ人を弾圧している軍人や警察官であり、外国人観光客がターゲットになることはほとんどない(特に東洋人は一目で観光客とわかるはずで、パレスチナ人も悪い感情は持っていない)。


④エルサレムはイスラム教徒にとっても聖地であり、ハマスのミサイル攻撃の標的になったことはない(ただし、今回はハマスはエルサレムにミサイルを撃ち込んできました)。


 残念なことに、日系メディアの多くはガザの状況は報道しているものの、日本人が多く居住しているテルアビブやエルサレム市内の状況や、市民の動きはほとんど報じていません。日本の国益という観点では、こちらの方がはるかに重要です。


パレスチナ系イスラエル人の本音は?


 意外に知られていないのが、イスラエルの総人口(パレスチナ自治政府が管轄するガザおよびヨルダン川西岸地区を除く)のおよそ4分の1はパレスチナ系アラブ人だということです。


 彼らはイスラム教徒ではありますが、ヘブライ語を話し、イスラエル国民としてのアイデンティティを持っています。ユダヤ教を国教としているイスラエルでは肩身の狭い思いはあるかもしれませんが、迫害を受けているわけではありません。日常生活ではユダヤ系住民との共生を心がけおり、国内でテロ活動はもちろん反政府デモ活用を行うこともごく稀です。上流階層は少ないかもしれませんが、下層というわけでもなく中流に属する方が多いようです。参政権も与えられており、イスラム系政党は国会で議席を有しています(ただし、イスラム教徒の投票率は低いため、比例代表制にもかかわらず人口比での議席数はさほど多くありません)。


 彼らイスラム教徒は、徴兵義務も免除されています(アラブ諸国との紛争時に戦闘を躊躇し、指揮系統に支障が出る恐れがあるためとみられます)。


 パレスチナ系住民は、ハマスなどイスラム系過激武装組織への反感から、彼らに対する排斥機運もイスラエル国内で高まることを恐れています。内心はハマスを迷惑視している者も少なくないと思わます。しかし、日本のメディアがこうした彼らの苦悩を取材・報道する機会はあまりありません。


 多くの日本人は、ガザ紛争を宗教対立や民族問題と誤解しており、これがイスラム教徒やユダヤ人へのヘイトをもたらしている感があります。メディアにおいてはガザでの紛争を報じるだけでなく、イスラエル国籍のイスラム教徒についても報じていただきたいです。


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