あちこち旅日記

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メディアが報じない中東の真実②:アラブがハマスを軍事支援しないわけ

 前回、「メディアが報じない中東の真実:中東はさほど難解ではありません」というタイトルで投稿しましたが、「アラブ諸国は口だけイスラエルを非難するだけで、軍事行動を起こすことはないだろう」と言及しました。今回は、その根拠について説明したいと思います。


 イスラエルとアラブ諸国は過去4回の中東戦争を戦っていますが、各戦争はそれぞれ以下のような経緯で開戦しています。


第1次中東紛争(1948~1949年)
国連調停でのイスラエルへの領土割り当てに反発したアラブ諸国が領土奪還を狙い、イスラエルへの攻撃を行う。


第二次中東戦争(1956年)
エジプトによるスエズ運河の国有化宣言に対抗した英国がイスラエルやフランスをそそのかして起こした、実質的な侵略戦争。


第三次中東戦争は(1967年)
ソ連の諜報活動にそそのかされたエジプトなどの中東諸国のイスラエル攻撃をイスラエルが事前に察知し、先制攻撃を行った。


 しかし、第四次中東戦争は事情がやや異なりました。第三次中東戦争まで敗れ領土を占領されたエジプト・シリア両軍がイスラエルの隙をついて攻撃したのが戦争の発端ですが、戦争中にアラブ石油輸出国機構(OAPEC)が親イスラエル国に対する石油禁輸措置を行い、石油輸出国機構(OPEC)も石油価格引き上げたことで第1次オイルショック(第1次石油危機)を引き起こし、「アラブ対西側諸国」の様相を帯びていたという点でそれまでの三度の戦争とは大きく様相が異なっていました。


 日本に対してはアラブ諸国は直接敵視はしていませんでしたが、原油価格の急騰により日本にも多大な経済混乱をもたらしたことは皆さまもよくご存知かと思われます。



 多くの方は、「アラブの大義」を持ち出すパレスチナとイスラエルの紛争が拡大すれば同様な事態が起きたり、産油国が軍事行動を起こせば原油の供給体制に支障が出ることを懸念されているのかもしれません。


 しかし、アラブ産油国は以下の理由からハマスへの軍事支援を行うとは考えられず、ましてやイスラエルと直接戦火を交えることはあり得ないと思われます。


(1)アラブ産油国にとって脱石油依存の推進のためにはイスラエルとの関係改善が必要
 第一に、地球温暖対策の観点から世界的に化石燃焼の消費抑制が進む中で、産油国は「脱石油依存」が急務になっています。このため、原油や天然ガスの採掘や、川下分野である石油化学産業への投資をひかえ、クリーンエネルギーや、IT・金融、ツーリズムなどの非製造業の分野の振興や、現行の原油・天然ガス輸出で稼いだ外貨の運用が必要になってきています。そこで注目されているのが、近年スタートアップ大国としてプレゼンスを高まるイスラエルとの経済関係の強化です。


 実際に2020年以降、イスラエルとアラブ諸国(UAE、バーレーン、モロッコ、スーダン)との間で国交正常化が行われており、この国交正常化合意は「アブラハム合意」と呼ばれています。


(2)アラブ産油国は原油・天然ガスの輸出先である西側諸国との友好維持も必要
 少なくとも現時点では、アラブ産油国は石油・天然ガスの輸出が経済の柱となっており、欧州や日本など、原油・天然ガスの主要輸出先との友好関係を重視しています。安定した輸出先を確保するには、原油需要の減少につながる市況高騰は避ける必要があり、これらの国々との関係を維持しておくことが重要になっています。


(3)アラブ主要国は米国と軍事同盟関係にある
 第三に、過去の中東戦争でイスラエルと戦火を交えてきたエジプトとヨルダンは、既にイスラエルと外交関係を樹立しています。その際、国交正常化交渉を仲介したのは米国でしたが、経済的な苦境に直面している両国に対し、米国による経済的、軍事的支援を引き換えに交渉が行われたと見られています。米国による支援を失ってでもパレスチナ寄りの立場に立つメリットは考えにくいところです。
 
 また、レバノンとシリア、イエメンを除く中東アラブ諸国の多くは、米軍と公式・非公式の同盟関係にあり、米軍に基地を提供しています。アラブがイランと長く敵対関係にあったことや(アメリカやイスラエルは「敵の敵」になります)、イラクによるクウェート侵攻(現在ではイラク政府は親米政権です)、イスラム国(IS)などのアラブ原理主義武装勢力とのテロとの戦いがあったことが背景にあります。


(4)ムスリム同胞団を母体するハマスとアラブ主要国は本来水と油の関係
 第四に、「ムスリム同胞団」との関係です。「ムスリム同胞団」とは、20世紀前半のエジプトで生まれたスン二派の代表的な社会運動・宗教運動組織です。当初は慈善運動を主に行い民衆の支持を集めてきましたが、徐々の政治色を強め、2010年末から2011年にかけて起こったアラブ世界における民主化運動(「アラブの春」)では各地で主導的な役割を果たしてきました。また、主張として世俗法ではなく、イスラーム法(シャリア)によって統治されるイスラム国家の確立を目標としています。ハマスはこのムスリム同胞団のパレスチナ支部を母体に設立されています。


 「アラブの春」は君主制や権威主義をとる国家が多い中東アラブ諸国では、大きな脅威となっていました。中東の金融センターとしてかつて隆盛を誇っていたバーレーンは、「アラブの春」の期間中に反政府デモが多発したことから外資系金融機関が相次いで撤退し、金融センターとしての地位をドバイに奪われた経緯があります。


 アラブ諸国の中でもムスリム同胞団を支援しているといわれるのが、全方位外交を国の外交方針としているカタールです。カタール政府は公式には否定していますが、ムスリム同胞団を資金的に援助しているとの噂が絶えず、国営メディアのアルジャジーラも「ムスリム同胞団」に好意的な報道を行っています。こうした事情から2017~2021年にかけて、サウジアラビア、エジプト、バーレーン、UAEの4か国とカタールとの外交関係は断絶していました。


 こうしたアラブの国々にとって、本来ハマスとの関係は水と油のようなものです。しかし、イスラエル寄りの態度を示せば、国内の反政府勢力やイスラム原理主義者を刺激し、内政が不安定化しかねません。口では「イスラエルはけしからん」といいつつも、ハマスとの距離を置いているのは、こうした事情があります。


 続きは明後日(2月15日)の投稿を予定しています。


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