あちこち旅日記

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中東における日系メディア情報はあまり頼りになりません

 クロスボーダーでビジネスをする際に重要なことは、情報であることはいうまでもありません。政府であれば、統計がきちんと整備され、経済現況分析がきちんとできること、そしてメディアによる政治・経済の報道が豊富に行われていて、論評も多面的な角度から行われていることが重要です。


 また、言葉の壁も大きい中東では、少なくとも英語で情報発信を行っているメディアであることが必要です。私も毎日主要なグローバルメディアと地元メディアには必ず目を通すようにしています。




 その点では、日本のメディアにはつい一番先に頼りたくなります。しかし、中東に限らず日本のメディアの報道の質は低く、日本語で情報をとれることくらいしか優れた点はありません。


 日系メディアの場合、大手でも中東では1つか2つしかオフィスがなく、取材能力は限定的です。したがって、記者の仕事は地元メディアの報道を翻訳・記事にし、1~2日遅れで配信することになってしまっています。その上、本社の編集方針を反映した見解が推しきせがましく書かれており、客観性を失い改悪されてしまっているケースがほとんどです。まず、情報として役に立ちません。こうした信頼に欠ける日系メディアの報道により、中東での紛争が誤った形で伝えられ、日本赤軍などの過激派テロを生んできたことは残念でなりません。


 これは中国に関する報道でも同様です。私にはメディア関係の知り合いが多いのですが、今よりも中国経済が力強く迫力のある成長を見せていた10年ほど前に、「今の中国に駐在して報道できるなんて、ジャーナリスト冥利に尽きるね」と言ったところ、「とんでもない、ここは海外ジャーナリストの墓場だ」と返ってきた記憶があります。「国有企業など、日本のメディアということだけで取材に応じてもらえず、国営メディアの記事をただ翻訳し、事実上政府発表を伝えるだけしかできない」と嘆いていました。


 中東で日系メディアより役に立つのが、欧米系メディアです。中でも、欧州系メディアの取材能力がすぐれています。私の個人的な印象では、ロイター、BBC、AFPが中東で信頼感のある3大メディアというところでしょうか。地元メディアとの記事のタイムラグも少なく、有用性は高いです。


 中東系メディアの中でも、カタールのアルジャジーラ、サウジのアラブニュースの取材網は優れたものがあります。ただし、アルジャジーラはムスリム同胞団寄りの報道が目立ち、中立性というところでは疑問が残ります。ハマスとも近く、ハマスの諜報部員となっている記者がいるとの噂も絶えません。イスラエルとハマスの戦闘が始まって以来、ハマスの主張を代弁する機関であると割り切って記事を読むようにしています。


 しかし、各国のローカル情報を入手するには、よりディープな記事を読まないといけません。この点で中東各国のメディアは優等生とはとても言えない状況にあります。中東には君主制や権威主義の政権が多く、報道の自由という観点で制約のある国が大半です。また、ニュースフローや政府による情報開示(統計発表)も限定的でいつも苦労していました。


 ドバイ(UAE)やバーレーンといった国際金融センターを標榜する国では、本来豊富なニュースフローが必要ですが、有用な経済記事は極めて少ない状況です。


 日本の製造業が多く進出し、大きな消費市場があるとともに、債券投資も人気のあるトルコでは、経済記事は豊富ですが、統計の改ざん疑惑もあり、政府発表は信頼性に欠けます。また、大手メディアはエルドアン大統領の支持基盤である企業の傘下にあるとされており、公正な記事はあまり期待できません。イランについても政府への批判は厳しく取り締まれられているようです。


 アラブ圏の多くの国で、報道の自由がないことが、ハマスのような過激組織を生んでいるとすれば残念なことです。


 中東で最も信頼できるメディアがあるのは、イスラエルとレバノンの両国であるというのが私の印象です。両国は中東で数少ない民主主義体制にあり、報道の自由が確保されています。


 イスラエルというと軍事国家というイメージを持たれている方が多いと思いますが、軍事国家=報道の自由がない、とは必ずしもいえません。確かに、軍事機密の扱いには慎重さを要するかもしれませんが、イスラエルでは軍事技術の民間転用に向けて情報開示に積極的で、日常生活に関する限り問題はありません。一方、見方を変えれば、国民に正しい情報が知らされているにもかかわらず、パレスチナへの憎悪が消えないということは、パレスチナ問題の解決の難しさを示しています。


 イスラエルのメディアはヘブライ語、アラビア語、英語で記事が書かれていますが、私が一番信頼しているのが「Times of Israerl」という英字オンラインニュースサイトです。特定の政党との関係はなく、政府に媚びることもなければ、社会問題にも積極的に切り込み、公正さを保っているところを評価しています。先日も、イスラエルに住むアラブ系住民の葛藤(ガザの同胞たちを心配しつつも、ハマスには大変迷惑している)を取材した記事は大変興味深いものがありました。


 レバノンは経済こそ崩壊してしまっていますが、民主主義が定着している数少ない国です。イランが支援する武装組織ヒズボラ(国会にも議席を有し、連立政権を構成)が数年前にイスラエルにミサイル攻撃した際に、発射地点近隣のレバノン住民がヒズボラの戦闘員の身柄を拘束し、攻撃への抗議の意を示したことを一部メディアが報じるなど、公正な報道が行われている印象があります。


 サウジアラビアは絶対王政下にあるため、報道の自由には制約が多いようです。しかし、経済記事に関してのニュースフローは豊富です。王族・王室を批判しなければ、政府の経済政策に辛口の論評を加えてもさほど問題にならないようです。「報道の自由度ランキング」は過剰に厳しくしている感があります。


 以下、「国境なき記者団」が評価した2023年の「報道の自由度ランキング」です(カッコ内は2022年の順位)。イスラエルでは、アラブ系記者がパレスチナ系住民への当局の弾圧を取材中に死傷するケースが多いことが減点対象となっているようですが、中東での順位は高位になっています。


 イスラエル 97(86)
 カタール  105(119)
 レバノン  119(130)
 UAE   145(138)
 クゥェート 154(158)
 オマーン  155(163)
 トルコ   165(149)
 エジプト  166(168)
 イラク   167(172)
 イエメン  168(169)
 サウジアラビア 170(166)
 バーレーン 171(167)
 イラン   177(178)

 なお、日本の順位ですが68位(2022年は71位)と民主主義国家では下位に沈んでいます。この問題は次回触れたいと思います。


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