あちこち旅日記

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キャセイパシフィック航空の「大陸客の英語からかい」事件について

 先週は、香港の航空会社であるキャセイパシフィック航空の客室乗務員(CA)が中国本土客の英語をからかったことが批判が殺到し、CAが解雇されたニュースが話題となりました。




 その後、香港政府のトップである行政長官まで非難声明を出すなど、「事件は香港人が中国本土人を見下した」として政治問題化している様相があります。ちょっとした言い間違いを笑いのネタにするのは確かに問題で、CAの未熟さや会社の社員教育のお粗末さを指摘せざるを得ませんが、自由放任経済の香港で、行政長官が言及するのはいかがなものかと思えますし、また、この程度なら、CAも乗客もジョークとして受け流す気持ちの余裕はなかったのでしょうか。


 それとも、恰好のクレームネタにしたかったのでしょうか。中国人乗客が相変わらずのヘビークレーマーでカスハラの常習者であることを改めて示したというのが私の率直な感想です。被害者が香港人だったらもちろん、日本人や台湾人でもこうはならなかったでしょう。


 そもそも、私も英語では結構赤面ものの言い間違いをしたことがありますが、それで揶揄された経験はほとんどありません。


 また、トルコを旅行中にレストランで言葉が通じずに困っていたところ、隣のテーブルの女子大生がつたないながらも英語で助けてくれたことがありました。ところが、牛肉のことを「Cow」というではなりませんか。おかしくて噴き出してしまいそうでしたが、意味は十分通じます。せっかくの親切をからかうということは考えられませんし、今となっては「愛嬌のあるお嬢さん」の思い出です。


 以下、①キャセイパシフィック航空の人材の質、②香港の言語、③香港の教育制度、という観点から論じてみたいと思います。





【香港の航空会社】客室乗務員が“客の英語”からかう 音声公開で批判殺到…謝罪


キャセイ航空は英系資本


 まず、キャセイ航空を「中国の航空会社」と誤解している方が多いようですが、これは誤りです。同社は香港を拠点とする航空会社で、英国植民地時代に設立され、現在でも最大の株主は英系コングロマリットのスワイヤグループです。経営的にも、中国資本というよりは英系資本の性格が強くなっています。


 実際に、パイロットは外国人が多く、CAも地元香港人だけではなく、多くの国籍の人材から構成されています。共通語は英語ですが、様々な言語を話せるCAがおり、英語が苦手な乗客でも困ることがないというのが強みです。日本人CAも数百名いるそうで、日本路線には必ず日本人CAが乗務しているのも安心です。


 かつて、中国本土路線は子会社のキャセイドラゴン航空が運航していましたが、コロナ禍で同社が解散・整理され、本土路線は親会社に移管されています。全員が解雇されていなければ、本土路線には全員でなくても普通話ができるCAが誰か乗務していたと思われます。


 ところで、CAというと、かつては日本では女性のあこがれの職業とされ、他のアジアの航空会社でも縁故採用が多いと聞きます。しかし、香港では必ずしもそうでなく、キャセイ航空の待遇も必ずしも良いとは言えません。人材の質という問題を抱えているのかもしれません。


 乗客の国籍や人種によりCAの態度が変わるというという問題は、他の国でも聞いたことがあります。知り合いのタイ人は「タイ航空は外国人とタイ人を露骨に差別する。乗客の差別をしない米系航空会社の方がいい」と言っていました。差別に対する意見は、様々なものがあるようですし、被害者意識にも個人差があるように感じます。


香港人にとって普通話は外国語 


 一般の香港(マカオも同様)の家庭で話されているのは広東語ですが、香港では大陸・広東省で話されているものと異なる単語があり、香港語であり広東語は厳密には異なると指摘する方もいるようです(これは米語と英語の違いのようなものです)。


 広東語の発音には日本語の訓読みに近い音が多く、日本人にも一見なじみがあるようですが、普通話の声調が4つなのに対し、広東語では9つあるといわれており、習得は難しいとされます(香港人も厳密には区別せずに、生まれつき身についているようです)。また、海外に居住している広東省出身の華僑には家庭で広東語を話している方も多いようです。


 テレビ局の言語も、中国のCCTV(中央電視台)傘下の港台電視33を除き、広東語または英語放送になっています。広東省でも家庭では広東語が一般的に話されていますが、テレビやラジオでは、普通話の番組も放送されています。しかし、香港では中国人でも普通話を解さない人が多いです。例えれば、沖縄の方は標準語はわかりますが、内地の者には沖縄方言がほとんどわからないようなものです。


 香港では、英文と中文が公用語となっています。英国の植民地時代には英語のみが長らく公用語でしたが、1974年に出された法定語文条例により「中文」が英語と並ぶ公用語としてみとめられました。1997年の中国返還以降は、香港特別行政区基本法第9条により、香港の行政・立法・司法の場において用いることができる公用語は「中文」と「英文」とされています。


 ただし、中文といっても広東語か普通話なのかという明確な規定はありません。もっとも、中国語の方言は発音と現代用語、口語表現の違い(例えば「ありがとう」は普通話では謝謝ですが、香港では多謝、台湾語では感謝です)、上述の現代用語くらいのくらいであり、文章に書いてしまえば中国人なら皆理解することができます。


 なお、漢字には中国大陸で使われている簡体字と、香港や台湾で使われている繁体字があります(日本でも戦前は繁体字が使われていました)。香港では、繁体字の使用が義務付けられおり、この点では中国本土とは明確に異なります(台湾に近いです)。


香港の教育制度における使用言語


 香港では、小学校から英語を学び始めます。インターナショナルスクールを除き、小学校段階では中国語が第一言語、英語が第二言語とされることがほとんどですが、中学校からは中国語以外の授業を英語で行うEMI(English-Medium Instruction school)、英語以外の授業を中国語で行うCMI(Chinese-Medium Instruction school)に分かれます。EMIの割合は2割程度とされていますが、EMIに学力の高い生徒が集まる傾向があるようです。


 香港では学位を授与している大学が8校ありますが、授業は原則として英語で行われています。香港大学に次ぐ難関とされる中文大学では中国語(広東語、普通話)と英語が併用されていますが、それでもハイレベルな英語力は要求されます。


 このため、香港人にとって英語力は教養のシンボルであり、エリート意識を形成しているといっても過言ではありません。大陸客への英語からかい事件の背景にもこうした意識があったのかもしれません。


 1997年の中国返還以降、普通話は小中学校の必修科目となり、話せる香港人は増えてきています。しかし、英語の習得の方が優先されるため、第二外国語のような位置づけにとどまっています。ましてや、年配の香港人には普通話の会話ができない者も珍しくはありません。


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