あちこち旅日記

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海外に行くならコロナワクチン接種すべきか?

 私は、今まで5回ワクチン接種しています。4回目と5回目は昨年の世界一周旅行の際、旅行期間中に免疫が最大になるようにスケジュールを逆算して接種していきました。


 当時は、帰国時にワクチン接種証明が必要で、いくつかの国では入国の要件だったり、ワクチン証明がないとホテルやレストラン、ショッピングモールに入れないなどの規制がありましたが、せいぜい3度の接種までしか求められてはいませんでした。それでも、迷わず5回目までワクチン接種したのは、万が一感染した場合、家族や職場の同僚を感染させてしまうリスクが大きく、クラスター感染でも起きたら職場の存続にかかわる事態になっていた可能性があったからです。




 では、この次に海外に出る時はどうすべきでしょうか。もうすでに多くの外国人が来日するようになり、マスクをせずに密集地を歩いている状況では、海外と日本での感染リスクはさほど変わらないと思われます。この意味では、「海外に行くからワクチン接種」というのは、訪問国で特に直近の接種を要件とされていなければ、もう必要ないと思います。


 しかし、私は以下の理由で海外に出ようが出まいが、6度目の接種をするつもりです。また、周りの方にも接種を勧めています。


ワクチン反対派の主張は?


 ここで、少し現状を整理してみたいと思います。ワクチンに反対する方には様々なお考えがあるようですが、列挙すると以下のようなものだと思います。


①国がワクチン接種を勧めるので、反抗するのが格好いい
②外国メーカーを儲けさせるために税金を使うのはけしからん
③注射は痛いので嫌だ
④ワクチン接種をしても感染している方がいるので効果に疑問を感じる
⑤感染しても重症化しないのならばかかっても構わない
⑥ワクチン接種でこれまでも副反応がありつらかった
⑦ワクチン接種で死亡した方がいたと聞いたことがある
⑧ワクチン接種での将来の後遺症が心配だ
⑨ワクチンそのものを信用していない(特にmRNAワクチンについて)


 このうち、①②は論外ですが、③痛いのは私も嫌です。でも健康診断の採血や、治療の際の点滴の注射の方がもっと痛いです。


 ④は事実ですが、オミクロン株の特色として免疫をすり抜けてしまい、複数回感染してしまうケースがあることが広く周知されています。感染を完全に防げないことは確かですが、臨床試験のデータからは効果はゼロでないことも明らかであり、ワクチン接種に加えて、マスク、手洗い・消毒を心がければ感染リスクは減らせるはずです。


 問題は⑤~⑨です。⑤が若年層の接種率の低さの要因になっていることは否めません。しかし、集団免疫を構築し、高齢者を守るためには、若年層の接種率を引き上げていかなければいけません。


 ⑥は38度台の熱であれば想定内ですが、突然のアレルギー反応や心筋症などが心配なのは理解できます。既往症については事前の問診と、接種後の経過観察を徹底することで防げるはずですが、それでもリスクをゼロにすることはできません。


 直近の疾病・障害認定審査会 感染症・予防接種審査分科会では接種による補償の申請を受け付けており、開示していますが、申請件数は6月9日までに累計7772件しかなく、頻繁に起きているわけではありません。このうち半分程度はまだ未審議ですが、2809件が認定、398件が否認、90件が保留になっています。審査会での認定にあたっては、個々の事例毎に、 「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象」 との考え方に基づき審査しており、認定率からみても、かなり認定の基準は緩いようです。よく誤解されているようですが、国が責任をなかなか認めないということはなさそうです。否認されたケースの多くは、発熱や腫れなど想定された範囲の副反応にすぎないというものでした。


 また、⑦については4月17日時点で53人の死亡が認定されています。亡くなられた方のご遺族の心情を思うと、言葉を選ばないといけないのですが、コロナ感染者は6月9日時点で3380万人、死亡者数は7.5万人弱と桁違いです。接種していれば救えた命の方がはるかに多かったです。


厚生労働省は皆が安心できるようにデータ開示を


 問題は、ワクチン接種をせずに感染した方・亡くなった方と、ワクチンを接種したことで亡くなった方がどちらが多かったということです。残念ながら、詳細なデータは一般の国民に分かりやすい形で開示されていません。私が知りたいのは、何回接種すると、感染率や死亡率が有意に低下するのかということです。


 接種して何等かの障害を負う確率と、接種せずに死亡する確率を比べた場合に前者の方が後者よりも桁違いに小さいだろうと、推察したため私は接種しました。ましてや、接種して死亡する確率と接種せずに感染する確率と比較すると、お話にならない大きな差があると考えました。しかし、正確な数字はわかりません。


 政府は「メリットの方がデメリットよりも大きい」としていますが、具体的なデータをもって示すべきです。反ワクチン団体の方も、独自の死亡率を発表していますが、サンプル数が少なく、信頼に足りません。


ワクチン反対派も科学的でオープンな議論を


 ⑦⑧についても、様々な憶測が出ていますが、掲示版への書き込みを見ていると大半は出所も怪しく、既に否定されている風説がほとんどです(不妊になるなどはその典型です)。ましてや、10年後に問題になるとか言っている方は、未来からタイムマシンでやってきたのでしょうか。こんな話をしていたら全ての治療法が否定されてしまいます。また「***らしい」と、怪しげな記事の引用が多く、科学論文を自分で読んでいない方がほとんどのようです。私も検索してみたのですが、説得力のある科学論文は見つけられませんでした。


 ワクチンの信頼度を高めるには、反対派を交えた専門家によるオープンな議論も必要でしょう。mRNAについては研究は30年前からあり、「mRNAワクチン」の開発の立役者、カタリン・カリコ博士は2021年のノーベル賞候補になるなど、この分野での権威は認めれている感があります。mRNAを使ったワクチンの安全性についての議論は深めて欲しいところですが、否定するにはそれなりに権威のある機関や研究者の名前が必要でしょう。ノーベル賞レベルの権威ある研究者(例えば山中先生レベルの方)を担ぎ出さないと、ワイドショー番組でコメントされているようなお医者さんでは失礼ながら相手にしてもらえなそうです。ちなみに、以下の記事を見る限り、山中博士のお考えはmRNAと親和性があるようです。



まだ油断するのは危険
 ワクチン反対派の「効果ない」つする議論の一つに、ワクチン接種が進んだのに、感染の波が収まらなかったことがあると思います。しかし、これはオミクロン株が免疫をすりぬけることから見れば、当然のことです。感染が再拡大しても死者が急増しなかったのは、日本では高齢者の接種率が高かったのと、コロナが弱毒化した幸運によるところが大です。


 もっとも、弱毒化したといっても、コロナの感染力が弱まったわけではありません。中国では、感染第二波が起き、週間新規感染者数が6000万人に達しているのではとの推定もあります。日本でもマスクを外す人が増えており、無症状感染者が急増している可能性も否定できないでしょう(実際にインフルエンザ感染が急拡大しており、今油断するのは大変危険です)。


 通勤電車ではマスクをしていない方は少ないのですが、休日の日中では結構見かけます。問題意識が低く、普段からリスクの高い生活をしている方だと先入観を持って見てしまいがちです。


 私も世界一周途上では、欧米ではマスクをつけた人はあまり見かけませんでしたが、首都のホワイトカラーの通勤電車ではマスク装着している方もそこそこいらっしゃいました。やはり、意識高いインテリ層はしっかり予防していました。また、タイでも空港職員はほとんどマスクをしていました。


若者のインセンティブをどれだけ高められるか


 目下最大の課題は④で示したように、ワクチン接種率の低い若年層の接種率をどれだけ高められるかです。若年層の場合、感染しても重症化せず無症状のままが多く、一方で副反応が出るケースが高齢者よりも大きいことから、接種するインセンティブが低いのは当然のことです。


 このため、自分が感染し、周りにうつさないことの重要性を訴える必要があります。しかし、人間は面倒なことを自発的に行動することがないのは、行動経済学が明らかにするところです。「大事な方のために」とか言われても、行動に移すことは少ないです。周りの同調圧力だと批判する方もいますが、健康に問題ないのにワクチン接種しない方に対して接種した方を優遇するのは予防接種推進にためには悪くないと思います。だたし、周りの接種率が低いと圧力が低下し、「自分が打たなくても」との意識につながりかねません。


 国や自治体の役割は集団免疫を高め、死亡者を減らすことです。若者にインセンティブを与え、接種率を高めることは重要な政策課題になります。その意味で、5類への移行に伴う接種の有料化を見送ったのは当然ですし、さらに接種を高めるようなナッジ効果*を研究していくべきでしょう。


 *ナッジ(nudge)とは、英語で「相手の注意を引くために、肘でそっと突く」ことを意味します。文章の文面や表示方法等を工夫することで、その人の心理に働きかけ、行動を行動科学的に変えていくことが「ナッジ理論」です。2000年代にこの理論を提唱した米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授が、2017年にノーベル経済学賞を受賞したことで話題になりました。


 私は、息子が小さい時にインフルエンザの予防接種を嫌がると思い、「きれいな看護師さんがチューしてくれるよ」とそそのかしていましたが、息子は笑って「注射すきだから行く」と言っていました。後でわかったのですが、行きつけの医院ではこども向けの「ガチャ」を導入し、おもちゃやお菓子を注射のご褒美にあげていたのでした。ある日、注射が終わって「ないな・・・」と探していて、看護師さんがごめんねと出してきて初めて真相がわかりました(あさましい息子ですみません)。


 若年層の接種率高めるために皆さんも何かいいアイデアありませんか。美男美女の看護師を集めて写真指名制とかダメでしょうか?(ジョークです)


ワクチン問題は医療よりも行動経済学的問題


 ワクチンについては、新型コロナワクチンだけでなく、薬害問題の実例からワクチンそのものを否定する声があるのも残念なことです。


 新型コロナが弱毒化したことで、緊急性は低下してしまいましたが、またいつ死亡率が高い変異株が出て来ないとも限りませんし、未知の感染症も出てくるかもしれません。この問題をこのまま幕引きさせてはいけません。


 ワクチンに否定的な方には、宗教などの信念によるものは仕方ないとしても「効果100%でリスクゼロ」を求めているヒステリックな方が多いように思えます。しかし、これは「高利回り保証の金融商品」を求めているのと同じです。日本で「貯蓄から投資へ」の移管が進まず、起業家が少ないのと根は共通しているのではと思います。また、このために日本ではワクチン開発力が低下しいることも否めません。リスクとメリットを比較して自己責任で行動する能力に欠けている日本人があまりに多すぎます。


 ワクチン接種はあくまでも任意であり、国が無料で行っているものです。強制的に拘束して接種するのならともかく、同意書に署名している以上、政府が補償金を払う必要もないと思います(払うとしたらお見舞い金として位置付けるべきです)。お金はむしろ、ナッジに使うべきです。


 新型コロナ対策は、もはや医学の問題よりも、行動経済学の問題になってきた感があります。


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