外国での銀行口座開設はますます難しくなっているようです
先日、「外国人の口座開設を拒否する銀行員の呆れた言い分」という記事ダイヤモンド・オンラインが出ていました。
この記事ですが2つの重要なことが書かれています。第一には、銀行員の質の問題です。海外では、個人預金を受け入れ商業ローンに貸し出す「商業銀行」は、リスク事業に傾斜している「投資銀行」(日本では法人業務を行っている大手証券会社がこれに相当します)よりも低くみられており、行員の待遇や人材の質も劣ると考えても不思議ではありません。しかし、日本ではこれまで商業銀行の人材の質は高いと思われてきました。ところが、この記事を読む限り、英語での外国人対応もできないというのはかなり情けない限りです。低金利の長期化で、利ザヤがとれなくなった商業銀行で大学生の就職人気が低下しているとは聞いていましたが、ここまで人材の質が低下しているとは思いませんでした。
もう一つは、外国人が銀行口座を開設するのはますます難しくなってきているという事実です。
日本の法律では、観光ビザなど短期滞在(90日以内)の非居住者の外国人は、日本で銀行口座を開設することができません。また、長期滞在ビザ(90日以上)を持っていても、日本での滞在期間が6ヵ月未満の外国人も、原則として銀行口座を開設することができません。
マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策に関する国際協力を推進するために設置された政府間会合があり、金融活動作業部会(FATF)と呼ばれています。FATFでは各国が法執行、刑事司法、金融規制の各分野において講ずべき措置を「40の勧告」として示しており、その順守・徹底のために相互審査とされています。
直近2021年のFATFでは、日本の「金融機関等によるマネロン・テロ資金対策」の評価を4段階で下から2番目の「M」評価とされています。大手金融機関は「(資金洗浄)リスクについて適切な理解を有している」とする一方、規模が小さい一部の金融機関は「理解が限定的だ」と指摘しています。
カギを握るのが「継続的顧客管理」ですが、口座開設時の本人確認や目的の聞き取りといった対応は進みつつあるものの、開設後もその口座を本人が使っているのか、取引に不審な点がないかの継続的なチェックが不十分だとFATFはみています。金融以外でも宝石商や弁護士など一部業種を「リスクについて低いレベルの理解しかない」とし、NPOを隠れみのにした資金洗浄リスクへの理解も「十分ではない」としています。
このため、金融機関は外国人の口座開設の審査をかなり厳しくしています。中には、審査基準として(長期滞在者か判断するために)日本語能力を考慮している金融機関もあるようです。これは決して外国人差別でも人権侵害でもありません(ただし、この記事ではマネロン対策を厳格にしたというよりは、行員の対応のまずさが原因だったようです)。
日本人が海外で口座を開設する際にも同様なことがいえます。日本から現地の銀行に口座を開設することはまず不可能で、現地に出向く必要があります。さらに、現地に行っても住所がなければ、口座開設を受け付けてもらえない国が多くなっています。かつて、ベトナム株投資がブームだった頃、口座開設ツアーなるものが人気でした。コロナ禍で下火になってしまったようですが、再開されてもいずれ非居住者の銀行口座の保有が禁止されるリスクがあるので注意が必要です。
口座開設が難しい外国人労働者は、日本では給与の受取を現金で行うことが一般的になっています。しかし、現金での支払いは脱税や給与未払の温床となる恐れがあります。2023年4月1日施行の法改正により、一定の要件を満たす場合には、給与を電子マネーで支払うことが認められたことは一つの進歩ですが、不正な口座を取り締まるために、脱税の温床となる現金支払いを放置しているのは本末転倒といえます。
日本では労働基準法24条における「賃金支払いの5原則」の中に、給与の現金払いが定められています。しかし、これは現物支給を禁止するためのもので、例外的に通勤定期は労使の協約で現物払いが可能であり、本人の承諾があれば銀行振り込みも認められています。この法律も時代遅れになってきており、現金支払こそ禁止し、モニタリングが可能な銀行または電子マネー口座への振込みこそ原則とすべきです。
外国人の口座開設を容易にする一方、口座取引状況のモニタリングを強化し、不正な口座転売や、マネーロンダリング、外国人への給与の未払いを防止する仕組みの構築に力を入れるべきではないでしょうか。口座取引状況のモニタリングのためには、一定の範囲での個人情報の監視は必要であり、犯罪のない公正な社会の実現のためには「幸せな監視社会」という考えがあってもよいと思います。
当初監視カメラが設置された際にプライバシーの侵害だと批判する声もありましたが、次第に国民に受け入れられて行きました。車載カメラについては、プライバシーの侵害だという声はほとんど聞こえてきません。国民の間で議論が高まることを期待します。
参考になったら、「プロフィール」のバナーをクリックお願いします。過去の記事リストがあります。シリーズ通してご覧いただければ嬉しいです。