あちこち旅日記

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東京駒込の勝林寺:田沼意次の菩提寺

 東京都巣鴨駅から近くの染井霊園に隣接して、勝林寺という小さい禅寺があります。染井霊園については以前も投稿していますが、周辺の寺院を含めて多くの歴史上の重要人物や文化人たちが眠っています。




 その中の一つが勝林寺があります。歩く道を見付けるのが難しいほど「墓石密度」が高く、あまり特徴が少ない地味なお寺(というより「墓地」といった方が実情に合っています)ですが、江戸時代の老中田沼意次とその嫡男で暗殺された若年寄の意知の墓があり、歴史的にも重要な由緒ある寺院です。

 勝林寺は臨済宗妙心寺派の寺院で、1615年(元和元年)に了堂宗歇によって開山されました。開山当時は現在の湯島聖堂のあたりにありましたが、1657年(明暦3年)の大火の後に駒込蓬莱町(現・東京都文京区向丘)に移転。さらに1908年(明治41年)の道路拡張工事に伴い、墓地のみを現在地に移し、1941年(昭和16年)には寺そのものが現在地に移転してきました。


 当初は「嵩呼山心宗寺」と称していましたが、1649年(慶安2年)に「萬年山少林寺」に改称、その後、「勝林寺」に改称しました。


 江戸時代には数多くの大名や旗本が檀家となっていましたが、それらの檀家の中でも最も有力だったのが田沼意次でした。老中在任中、意次が勝林寺の拡張整備を行ったことから、勝林寺では意次を「中興開基」としています。


 ところで、田沼意次というと日本史の教科書では「汚職まみれの老中」「通貨改鋳でインフレを引き起こした」などと悪人のように扱われてきました。私と同年代のアラ還世代の方は、さぞかしよいイメージを持っていないのではないでしょうか。


 しかし。近年、意次を再評価する研究が増え、教科書の内容も変わってきているようです。特に、通貨改鋳は「量的緩和による景気刺激策」として300年近く昔に行われていた政策として先見性を高く評価する経済史学者もいます(結局、通貨改鋳によるインフレは起きておらず、インフレの主因は天明の飢饉による米価高騰でした)。また、「汚職まみれ」との風聞も、意次の出世ぶりに嫉妬した松平定信(吉宗の直系にも関わらず将軍になれず、本来は家来筋のはずの意次の権勢に嫉妬していたようです)の策略だったとの説や、自らの不人気に対して後年広めた作り話であったとの説もあるようです。


 定信の改革があまりにも不評だったことから「白河の清きに魚も住みかねて もとの濁りの田沼恋しき」と読まれた狂歌は有名です(ちなみに白河とは、白河藩主であった定信のことを指しています)。


 意次が取り組んだ事業に中には、印旛沼の干拓事業もありました。民間資本を入れた発想も大変斬新でしたが、豪雨や浅間山噴火の影響で工事箇所が決壊し、意次の失脚もあり工事は中止に追い込まれてしまいました。その後も工事は難航し、干拓工事が竣工したのは昭和時代になってからでした。先日報告した佐倉市のさくらふるさと広場周辺の農地はこの干拓地の一部になっています。干拓工事が竣工した時には、米が余り政府の減反政策が始まっていたとは何たる皮肉です。




 田沼意次が活躍した時代は、享保の改革で徳川吉宗が農民への増税を行い、農家が疲弊。それまで増加が続いていた人口が減少に転じた後でした。意次は、農民への課税だけでは行き詰まると考え、株仲間を奨励するなど商工業者を育成し、冥加金・運上金を徴収することで財政再建に取り組みました。米本位制から貨幣経済への転換を的確に捉えた経済政策は理にかなったものがありました。


 吉宗は、テレビドラマの「暴れん坊将軍」での松平健さんの好演と「マツケンサンバ」のお茶目なキャラで、多くに国民に好感を持たれているようです。これに対して、田沼意次は「オヌシも悪よのう」というセリフが似合う悪役キャラになってきました。しかし、実は吉宗こそとんでもない弱者いじめを行ってきた史実があり、田沼意次の政策の方がはるかに優れていたとように思えます。


 田沼意次が出世したきっかけとなったのが、美濃国での百姓一揆の解決でした。意次もこの経験に基づいて、農民への増税を戒める家訓を残し、領地(遠江国相良藩)では名君として今日でも慕われているようです。


 ちなみに2025年に大河ドラマ「べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~」では横浜流星さんが主演を務める予定ですが、渡辺謙さんが演じる田沼意次も重要なキャラになっているようです。内容はまだよくわかりませんが、渡辺謙さんの発言からはこれまでの田沼意次のイメージを大きく覆す可能性もありそうです。


 今回勝林寺に行ってみて、田沼意次のことに大変興味がわいてきました。意次ゆかりの地など、また改めて報告したいと思います。


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