あちこち旅日記

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メディアが報じない中東の真実③:悪いのは米国とユダヤ資本ではない

 パレスチナ問題についてのSNS投稿をみると、「アメリカが悪い」「ユダヤ系資本の金の力で欧米政府は言いなりになっている」とのコメントを多く目にします。しかし、これは中東近代史と米国社会についての無知からくる典型的なフェイク情報です。それどころか、後者はホロコーストの原因となったユダヤ陰謀論につながる問題発言レベルのものです。


 まず、中東史からみてみましょう。少しでも世界史を真面目に勉強された方(真面目に勉強していても、先生の力量がないと通常はここまで終わらないんですよね)ならば「英国の三枚舌外交」はご存知だと思います。


全てはイギリスの三枚舌外交が原因


 第一次世界大戦でドイツとの同盟国であった強大なオスマントルコを前に、イギリスはアラブ、フランス、ユダヤ社会に同盟や支持を持ち掛けます。その結果、以下の利益相反する3つの条約が結ばれます。


1915年10月 - フサイン=マクマホン協定(中東のアラブ独立を認めた協定:公開)
1916年5月 -  サイクス・ピコ協定(英仏露による中東分割、後に露は革命で離脱:秘密協定)
1917年11月 -  バルフォア宣言(パレスチナにおけるユダヤ民族居住地建設を認める:公開)


 特に重要なのが、3つめのバルフォア宣言です。これはイギリスの外務大臣アーサー・バルフォアが、イギリスのユダヤ人コミュニティーのリーダーであるウォルター・ロスチャイルドに対して送った書簡で表明されたもので、シオニズムの原点となりました。


 ホロコーストの被害を受けたユダヤ人たちがこのバルフォア宣言を信じて第二次大戦後パレスチナに移住しイスラエルを建国した結果、中東戦争が起き、今日のパレスチナ問題の原因となったことはいうまでもありません。同様に、英国が勝手に引いた国境線のために、今日のクルド問題が起きてしまったことも否定できません。


 また、このバルフォア宣言は、イギリスがユダヤ人コミュニティから戦費を引き出すことが目的であったとされています。


 「ユダヤ系資本の金の力の前に、欧米政府は言いなりになっている」という誤解はここから来ていると思われます。


 しかし、これは過去の話であり、少なくとも悪いのは三枚舌外交で問題を作り出したものの、自ら解決できなくなり、国連に全て投げてしまったイギリスというべきでしょう。また、ユダヤ人の移民が始まった当初は、アラブ人(パレスチナ人)との間で多少の摩擦はあったものの、共存ができていたとされています。第二次大戦の戦勝国による国連の責任も大です。


米国はイスラエルとアラブの和平仲介に貢献してきた
 国連の調停が問題を引き起こしたとすれば、国連安保理理事国である米国の責任もなかったとはいえないでしょう。しかし、戦後の中東史を見る限り、米国、とりわけ歴代民主党政権はむしろよくやってきたと思います。エジプト、ヨルダンとイスラエルとの国交正常化、イスラエルとパレスチナの間の歴史的和解となったオスロ合意も仲介したのか米国でした。


 また、ユダヤ資本があたかもイスラエルによるパレスチナ弾圧を後押ししているかのような主張もあてはまりません。少なくとも、米国のユダヤ人コミュニティはリベラル色が強く、拉致された親類たちを案じつつも、武力よりも話し合いによる解決を主張している方が多くなっています。


米国対パレスチナで強硬なのはユダヤ教徒ではなく福音派キリスト教徒
 むしろ、米国内で強硬な論調が目立つのは、イスラム教徒への偏見を持っている極右思想の方や、キリスト教徒の中でも聖書の忠実に「福音派」と呼ばれる方たちです。米国におけるユダヤ系人口が600万人と推定されているのに対し、福音派はそれをはるかに上回る2500万人といわれています。


 この福音派の立場では、イスラエル(パレスチナ)を神がユダヤ人に与えた土地と認められています。さらに、イスラエル国家の建設は聖書に預言された「イスラエルの回復」であるとし、ユダヤ人のイスラエルへの帰還を支持しています。こうした福音派の立場は「クリスチャン・シオニズム」と呼ばれています。



 米国における福音派とともに、ドイツルーテル教会のマリア福音姉妹会なども同様な主義をとっています。特に、ドイツなど欧州ではホロコーストなどのユダヤ人排斥を行ってきた経緯から、現在でも贖罪意識が残り、イスラエル政府を批判しにくいという事情があるのかもしれません。


 このように考察してみると、「アメリカがいけない」「ユダヤ系資本のいいなり」というのはフェイク情報であり、「元はといえばイギリスが悪い」「問題を大きくしたのは福音派などのキリスト教の一派」というべきとの結論に達します。


 次回は明後日(2月17日)の投稿を予定しています。


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