あちこち旅日記

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クルド難民問題の落としどころは?

 以前、日本のワラビスタン・川口芝園団地を訪問した件を投稿しました。クルド人が多いと聞いていましたが、団地の住民の大半は中国人であり、クルド人はほとんど見かけることができませんでした。日本にいるクルド人の多くは難民申請が認められず不法滞在状態の者も少なくなく、ひっそりと暮らしているのではないかと思われます。




 クルド人を語る際には、クルド難民問題は避けて通れません。改正難民法の国会審議を巡って、難民問題にスポットライトが当たりました。もっとも、日本で報じられているクルド難民問題は、事実に反するものや誤解されているものが少なくありません。


 例えば、
・クルド人はトルコで迫害されている
・日本は難民受け入れに消極的である


というのが、報道から推察される多くの方の認識であると思われます。また、入館職員によりスリランカ人のウィシュマさん虐待死事件と重なったことから、メディアや世論難民問題を聖域化してしまっている感があります。




 今回は、難民問題を考える上で、トルコのクルド難民問題の実情を報告したいと思います。


(誤解1)トルコでは憲法でクルド人の権利を擁護
 クルド難民支援に当たる団体は、トルコではクルド人が迫害されているとしています。しかし、これは過去の話と言えるほど状況は変わってきています。
 トルコでは人口の約2割がクルド人です。トルコにおけるクルド人は過去には文化的自由が制限されたり、クルド人が多く居住する地域では経済開発が遅れているため、現状に不満を抱いているクルド人は少なくない模様です。
 しかし、現在の憲法下、政府はクルド人に対する差別を禁止し、トルコ系住民と同様の市民権が与えています。EU加盟を目指すトルコ政府は、人権問題については欧州基準に従うように努力しており、法律面の整備が進んでいます。
 
2001年10月の憲法改正ではクルド語による出版・放送が可能になり、2002年8月に制定されたEU加盟基準整合法でクルド語以外にも少数民族の母語による放送・教育が認められました。200911月には主にクルド人の権利拡大をうたった「民主化イニシアチブ」が発表されましたが、これには経済活動におけるクルド語の使用を認める法案などが含まれていました。
 もちろん、いくら法律が出来たとしても実際にその通りに運用されているかは別問題です。世界的にも、マイノリティーに対する偏見があるケースは珍しくありません。しかし、これを言ったらアメリカの黒人やアジア系、ヒスパニック、インドの低カーストの人たち、南アフリカの有色人種・・・。彼らも全て難民になってしまいます。


(誤解2)欧州でもトルコ難民は受け入れていない
 クルド難民を擁護する意見の中に、欧州では難民受け入れに積極的なのに、日本は難民を受け入れていないという声もあります。  
 欧州でも難民受け入れに最も積極的なのがドイツといわれています。人道上の理由だけでなく、労働力不足も積極的な難民受け入れの背景にありました。実際にドイツは過去に多くのトルコ人移民を受け入れてきました。しかし、現在ではドイツはトルコ人の難民をほとんど受け入れていません。トルコの民主化が進んだ国とみなされ、難民は存在していないというのが、欧州のコンセンサスです。
 また、ドイツが受け入れたクルド人の難民は数多くいるのですが、イスラム革命後イランで迫害されきたクルド人、イスラム国との戦闘から逃れてきたりトルコのPKK(後述)掃討のために軍事活動で逃れてきたイラクのクルド人、内戦から逃れてきたシリア人(クルド系も含まれている可能性あり)などが多数を占めています。シリア難民の多くはトルコを経由して欧州に来ているのであり、迫害されてトルコを脱出してきているのではありません。


話をややこしくしているクルド人テロ組織の存在
 話をややこしくしているのが、トルコにおけるクルド人非合法反政府組織(クルド労働者党=PKK)の存在です。
 クルディスタンと呼ばれるクルド民族居住地域は第一次大戦後、トルコ、イラン、イラク、シリアに分割され、クルド人は国を持たない民族となってしまいました。この結果、起こったのは。クルド人による民族自決運動です。


クルド人居住地域

(出所)CIA


 トルコ国内では、分離独立を唱え反政府武力闘争を行う「クルド労働者党(PKK)」が結成され、イラク領北部を拠点にテロ活動を行ってきました。本来の攻撃対象は、トルコ政府要人や治安組織ですが、活動方針をめぐって敵対関係にあるクルド系政党やPKKに非協力的な民間人を標的としたり、「クルド解放の鷹(たか)」(TAK)を名のる関連組織が、トルコ国内の観光地も標的であると主張しています。米国国務省は、1997年10月に同組織を外国テロ組織(FTO)に指定しており、我が国の公安調査庁もPKKを主な国際テロ組織の一つとしています。
 これに対して、トルコ政府はイラク領北部で掃討作戦を実施し、1999年にPKKのオジャラン党首を逮捕しています。オジャラン氏は、1999年2月に拘束された後、同年8月、獄中から「和平イニシアチブ」を発表しています。同「イニシアチブ」は、PKKメンバーに対して暴力の停止を命じるとともに、トルコ政府に対話を求めることを内容とし、2000年1月のPKK党大会で支持が決定されたました。その後、PKKは、2002年4月の党大会で、KADEKへと名称を変更し、「クルド人の権利を保護するため非暴力的活動を行う」ことを宣言しています。
 しかし、その後もPKKによるとみられるテロ活動は収まらず、2011年8月、トルコ国軍のバスに対する爆弾テロを実行しています。その際の犯行声明において、「我々の戦士は、トルコ全土で自らの任務(同様の攻撃)を行う用意がある」などと主張しています。また、同年9月に、アンカラ中心部で自動車爆弾によるテロを実行した際も、その犯行声明において、「今次テロは一連のテロの始まりにすぎない」、「大都市は我々の主要な攻撃対象である」などと主張しました。
 このため、現在でもトルコ国軍はイラク北部への空爆をたびたび行っているほか、シリアのクルド人主導の反政府軍事組織に対して掃討作戦を行っています。
 海外に逃れたPKK幹部や同組織に関連のある人物を巡って、トルコと欧米諸国ではたびたび外交問題が起きています。スウェーデンにおけるクルド人コミュニティはそこそこの規模があり、分離独立活動に参加しているクルド人も少なくない模様です。これに対し、トルコ政府はスウェーデンが「テロリストを擁護している」と批判し、NATO加盟に反対してきました。スウェーデンのNATO加盟が難航していた件は皆さまもよくご存知かと思います。



クルド難民への審査が厳しいのは仕方ないこと
 EUもPKKをテロ組織として指定しており、欧州でもトルコのクルド難民問題は、近年ではあまり問題視されなくなってきています。単にクルド人であるということを理由に迫害が行われているのであれば問題ですが、問題視されているのはPKKおよび関連組織のメンバーです。
 迫害を受けていると主張するクルド人がいれば、テロリストの疑いがかかる人たちということになります。日本だけではなく、各国の難民認定が慎重になるのは当然でしょう。
 もし、PKKのメンバーであるクルド人を難民認定しようものならば、トルコ政府との外交問題になるのは必至です。我が国政府や大多数の国民が「たとえいかなり理由があってもテロは許されない」との立場をとっている現状では、PKKメンバーやその家族など関係者を積極的に庇護する理由は見出せません。
 日本赤軍など国際手配されている日本人テロリストが日本に帰ると迫害される(死刑になる)と主張し、これを難民認定して送還を拒否する外国政府があったらどうなるでしょうか。実際に、北朝鮮は日本政府からのよど号ハイジャック犯の引き渡しを拒否してきました。
 シリアやイラクにあるPKKおよび関連組織の掃討に参加を拒否み、徴兵を拒否して日本に逃れてきたと主張するクルド人もいるようです。しかし、兵役の義務に従わない自国民を罰することは迫害には当たらないというのが、世界のコンセンサスになっています。
 では、反政府デモに参加するなどの軽度な政治犯だったらどうでしょうか。日本では犯罪にならない行為であれば、難民として庇護するに値するかもしれません。軍事クーデターのあったミャンマーや、重大な人権侵害のある中国、北朝鮮といった国からの難民は数こそ少ないものの、実際に日本で庇護されているケースがあります(ただし、在留許可をもらっているものの、難民認定は受けていない模様です)。もっとも、こうした国に対しては、国連の非難決議などを根拠に、日本政府も当該国政府と対立するのを覚悟で受け入れています。友好国であり、かつウクライナ問題でも協力が必要なトルコ政府と対立するのは賢明ではありません。


問題は迫害を主張する偽装難民が多いこと
 そもそも日本における難民認定数・率が少ない原因に、島国である日本には国境を越えてくる難民が少ない一方(昔はベトナムからのボート難民が結構いましたが、最近は少なくなりました)、経済的な豊かさを求めてくる偽装難民が多いことも挙げられます。
 クルド系でもトルコ国籍者は、日土政府間の協定で観光目的ならばビザなしで入国できるため、入国目的を偽って来日し、その後難民申請しているという現状があります。難民申請する時点で既に不法滞在者になってしまっているため、審査は当然厳しくなります。
 入国目的を偽って来日する不法滞在者はクルド人以外にも多く、審査官が十分な時間を割けないという問題を起こしています。難民認定を受けられなかった者が再度申請することで、滞留申請が増え、事態をさらに悪化させている面もあります。
 改正難民法では、2回目の審査で認定されなかった者を強制送還できるようにしたことが非難されていますが、難民申請を繰り返し、不法滞在者化している偽装難民が多いという問題が指摘されています。申請回数を制限し、一人一人に十分な審議時間を割くことができるのであれば、偽装ではない本当の難民はかえって認定を受けやすくなるのではないでしょうか。


観光目的で入国して難民認定を受けられる国は稀
 実際に、観光目的と偽って入国した外国人を難民として受け入れている国はほとんどありません。難民認定率が高いといわれる米国や英国の入国審査が厳しいのは皆さま御周知の通りです。
 また、外国人労働者や移民の受け入れに積極的な国も、就労ビザの申請は国外での申請が原則です。就労ビザが切れれば、再申請のためには一旦出国しないといけません。


日本のパスポートの通用度にこだわるべきでない
 偽装難民の温床となっているのは、日本との所得格差の大きい国との間の観光ビザ免除制度です。日本よりも所得水準が高く、税金も安い香港人が、中国政府による迫害を主張し難民申請するケースはあまり聞いたことがありません。そもそも国外に逃れる香港人で日本を移民先として希望するケースは少数です。
 日本のパスポートでビザなし渡航できる数は、5年続けて1位であった後、2023年夏の調査では3位タイとなってしまいました。それでも、ビザなしで訪問できるのが189カ国・地域となっています。
 ビザなし渡航できるケースには、①相手国との経済格差が大きく日本人の観光客やビジネス客を無条件で歓迎している国、②相互主義に基づく協定を結んでいる国、があります。後者の場合、ビザなし入国制度を廃止した場合、日本のパスポートの通用度が低下することになりますが、偽装難民を減らすためには仕方ないところでしょう(米国のパスポートの通用度が低いのは、ビザなしでの入国を制限している対象国が多いためです)。実際に、過去の不法就労者の多かったパキスタンやイランとのビザ免除協定を破棄してからは、両国からの不法就労者は大幅に減少しました。


現状の不法滞在者に恩赦を与えてもよいのでは
 これまで難民申請を行ったものの認められずに、再申請を出し、審査を待っているクルド人は少なくありません。これらのクルド人の不法行為や迷惑行為が問題になり始めています。本来は、逮捕・強制送還の対象となる行為も、ウィシュマさん事件以来、世論の風当たりが強くなっていることを受けて、公安当局や入館も摘発に及び腰になっている模様です。また、生活資金を稼ぐために難民申請中にもかかわらず、不法就労するケースも多いようです。
 しかし、不法滞在者を闇くもに摘発することが最善とは限りません。不法就労故に、最低賃金以下の労働を強いられるなど犯罪の被害者になったり、逆に犯罪行為に手を染める恐れがあります。
 今後の入国審査を厳格化するのと引き換えに、一定期間品行方正に暮らし、一定の技能と日本語能力がある不法滞在者に対して、労働ビザを特例で発給することも検討してもよいのではないでしょうか。



難民支援施設の民営化も検討すべき
 難民に対する政策は、世論も真っ二つに割れているようです。難民の受け入れを積極化すべきという難民支援団体もあれば、偽装難民に対する公費の支出を批判する方々もいます。
 そこで、公費負担なしに、最低賃金を保証する就労の機会と住居、日本語の習得などを支援する民営施設を認めてはどうでしょうか。仕組みとしては民間刑務所に近いものの、刑務所とは異なり外出の自由(ただし、GPSを装着させ外泊は禁止する)を保証するものです。収容者には何らかの就労と適正な家賃支払いを義務付け、外販などの収益金で運営費を賄っていけば、公費負担は生じない(あっても入管施設よりも少額で抑えられる)はずです。民間刑務所については、山口県美祢市などで既に実績が上がっています。



 ウィシュマさん事件では、入管職員の不法行為に対してガバナンスが機能していなかったことが問題でした。しかし、あえて民営施設とすることで、職員の不法行為を取り締まりやすくなると思います。


難民を食い物にしている者がいないか?
 こうした定住支援施設では、効率的でガバナンスのしっかりした大企業を運営主体とするのが望ましいと思われます。一方で、利権が発生しないように、基本的な制度設計をしっかりする一方で、利益を適正にコントロールするべく、入札を徹底させる必要があります。情報開示やガバナンスがあいまいな難民支援団体のような組織、天下りなどの利権の温床である財団法人・社団法人よりも、情報開示が徹底し、社会的に監視されている株式会社の方が運営に適しているかもしれません。実際に、山口県などの民営刑務所では、株式会社の合弁企業がきちんと運営し、大きな問題は生じていません。
 一番いけないのは、本当に困っている難民を食い物にしているる者がいることです。彼らはとかく日本の難民認定率や数の少なさを強調し、自分たちのビジネスを拡大しようとしてきます。難民支援団体を装い、寄付金をむさぼっている団体はないか、難民申請を何度も繰り返させ、手数料を何度も受け取っている悪徳弁護士がいないか、我々も目を光らせていく必要があるでしょう。ましてや、難民認定数の目標でも作成しようものならば、数合わせのために、偽装難民でも構わないという声も出かねません。人口減少社会で、外国人に来てもらうことには私は賛成ですが、偽装難民や低賃金で働く「労働者」ではなく、高スキルを有し、日本人の賃金水準を上げるのに貢献してくれる外国人に限ります。


 難民の支援に当たる方の多くは善良な人たちなのでしょうけれども、韓国でも慰安婦や徴用工支援団体の実態が明らかになるにつれ批判が増えてきています。日本の難民問題では、どうみても弁護士たちが一番甘い汁を吸っているように見えます(申請するたびに手数料収入が入ってくる仕組みになっています)。
 
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