あちこち旅日記

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風評被害への補償のあり方を考える

 福島第一原発からの処理水放出を巡り、風評被害に伴う漁業者への補償を政府は表明しています。しかし、実際に処理水放出後に目立った形で水産物の価格下落は起きていないようです。一方で、帆立やナマコなどの中国向け輸出がストップしてしまっています。今回は、こうした被害への補償についてのあり方を考えてみたいと思います。




被害が出ているのは福島以外の地域
 福島産水産物については、風評被害への支援の声が上がっており、ふるさと納税の申込額は10月からの制度改正前の駆け込みもあり、処理水放出直後には急増していた模様です。むしろ影響が出ているとすれば、福島県およびその近隣地域よりも、遠く離れた地域の方かもしれません。処理水放出に伴い、中国は水産物の輸入制限を福島など特定地域から日本全国に広げています。風評被害について国民の認知度が低く支援が集まりにくい地域こそ、支援が必要だと思います。


価格維持よりも販路拡大で支援すべき
 風評被害への懸念に対し、9月29日に宮下農水大臣が「ホタテを1人年5粒食べて」と異例の呼びかけを行ったことが報じられています。



 しかし、私はこの発言に強い違和感を感じています。実際に国民の間では、この発言について「ホタテは高くて買えない」との反発が少なくないようです。帆立の国内消費が盛り上がらないのは、そもそも中国向けの輸出が拡大した結果、帆立の価格が上昇し、国内消費が締め出されたことによるところが大きいと思われます。ここで帆立の価格を維持すれば、国内需要が回復しないままに、売れ残った在庫が積みあがっていくのは必至です。


 実際には国内では風評被害はさほど出ていないのですから、価格維持よりも国内消費の増加に結び付く販売促進を支援したり、中国に依存しない販路の開拓を中心に政府は支援していくべきではないでしょうか。生産者も処理水放出前の価格を維持することにこだわれば国民の支持を失い、各方面から寄せられている支援の声も後退していくでしょう。


水産物の輸出落ち込みは東電のせいではない
 また、風評被害に対して、東京電力に負担を求める声が強いことにも疑問を感じます。


 処理水放出開始を受けて、東京電力では10月7日に補償についての考え方を表明し、漁業や農業など業種ごとの風評被害の確認方法や被害額の算定方法で、今後検討を重ねて年末までに正式な基準をまとめる、としています。


 しかし、中国による水産物輸入規制は、処理水放出によるというよりも、台湾問題や日米欧が連携した半導体輸出規制への中国側の反発による政治的な報復であると考えられます。日中関係をどう考えるかという外交政策の結果であり、中国の産業封じ込めや、中国による台湾侵攻を防ぐことを目的とした政治決断であれば東電のせいではありません。外務省、経済産業省の予算か、防衛費として税金を用いて国民全体で負担すべき問題でしょう。


東電の従業員にも責任を負わせるべきだったのか
 もう一つの問題は、東電に補償を負わせることで、(賞与の削減などのかたちで)従業員の賃下げが行われてきたという事実です。


 被害を受けた生産者や福島県民の方には「東電憎し」の感情があることは理解できます。しかし、今回の原発事故の責任を問われるべきは、経営陣と監督機関(政府)であって、日々電力の安定供給に腐心されてきた担当者や、本社の事務スタッフではありません。東電の補償費用が膨らみ、職員の賃下げが行われいたとすれば遺憾なことです。


 また、補償義務を負わされたのは、東電だけではありません。他地区の電力会社も負担を負わされ、燃料コストの上昇に際しての値上げ申請に対しても、厳しい査定が行われています。言い方を変えれば、電力会社は株式を上場していながら「利益を稼ぎ配当する」という上場企業の役目が果たせない死に体の企業になってしまいました。


 こうした状況は、今後住民や消費者に大きなデメリットをもたらすかもしれません。再生可能エネルギーなどに十分な投資ができなくなり、安定供給に支障をきたす恐れや、従業員の離職によるサービスの低下も懸念されます。


 そもそも、東電の補償体制を確立するためには、福島第一原発以外の事業を切り離して新会社を設立する一方で、事故による補償を義務付けた清算会社が保有する新会社の株式を売却し、その売却代金を原資に補償に当たらせるべきでした。イメージとしてはジャニーズの補償方法に近いものです。


 清算会社の株式は紙屑同然になるか、経営破綻しないまでも相当な株価下落は起きていたと思いますが、例え原因が不可抗力の事故や連鎖的なものでも企業の経営破綻時に株主がまず責任を負うのは、資本主義経済での世の常です(投資家には気の毒で、年金資産も大きな損害を受けますが・・)。しかし、企業が経営破綻したとしても、最優先で保護されるのは労働債権(従業員報酬等)です。株主だけでは責任を負えなかった場合でも、銀行や取引先に債権放棄させ、従業員の賃金は最優先で守られるのが通常です。


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