刑務所や保育園、公園はNIMBY(迷惑施設)なのか?
先日、サンフランシスコのアルカトラズ島訪問を報告しましたが、刑務所跡地は観光客でにぎわっていました。
ところで、刑務所というと原発や廃棄物貯蔵施設、ゴミ処分場などと並んでNIMBY(Not In My Backyard:私の家の裏に来ないで)の典型とされてきた施設です。受刑者が釈放後にその地域に定住してしまうことや、反社組織に所属する受刑者の仲間が面会に来るのが嫌われているようです。
もっとも、実際には面会できるのは、次の資格を持つものに限られています。
①親族(内縁関係含む)
②社会的手続き、事業の維持のために面会が必要な人(代理人弁護士含む)
③受刑者の更生保護、出所後の雇用に関係のある人(暴力団関係者除く)
④受刑者と交友関係の維持の必要があり、その更生・社会復帰に害を及ぼさない、施設が面会を認めた人
反社組織の仲間による訪問は当然認められません。また、受刑者も好き好んでつらい思いをした刑務所の近くに住みたいとは思わないでしょう(近所に顔を知った刑務官もいることですし)。品行方正な受刑者が、刑務作業や社会奉仕活動などで知り合った地元の方に見込まれて、雇用されるケースはあるかもしれませんが、そういった受刑者ならば再犯するリスクは小さいのではないのでしょうか。
実際に、刑務所で有名な北海道網走市の治安が悪いという話は聞きませんし、むしろ旧刑務所はアルカトラズと同様に貴重な観光資源として地域に大きな貢献をしています。また、社会奉仕活動や低廉なコストでの刑務作業など、刑務所の地元社会や経済への貢献を評価する見方も少なくありません。刑務官の方も家族同伴で施設近隣に引っ越してくる必要があるため、人口の流入も見込めます。
先入観にとらわれず、こうしたメリットにきちんと気がついている方もいるようで、刑務所の誘致は自治体の過疎地対策として人気を集めるようになっています。最近では2004年に刑務所の新設に当たり公募が行われ、誘致のために全国で51もの自治体が手を上げたようです。
この時は山口県美祢市が誘致に成功し、現在、美祢社会復帰促進センターという名称の施設が稼働しています。この施設は日本初のPFI(民間資金活用による社会資本整備)方式により設置された刑務所としても知られており、「民活刑務所」とも呼ばれています。
(出所)美祢社会復帰促進センター
刑務所の場所は、かつて地域振興整備公団が造成し、関連公共事業を美祢市が実施して整備した工業団地「美祢テクノパーク」でした。この工業団地は1997年9月の分譲開始以来、一社の企業も進出していない状態が続いており、美祢市では利活用方法として2001年より刑務所の誘致を始めていたそうです。
こうしていた時に政府が規制緩和に着手し、構造改革特区の指定を受けた地域でPFI手法による刑務所の設置が可能となりました。2005年4月に事業者選定の競争入札が行われ、セコム、清水建設、小学館プロダクションを中心とした「美祢セコムグループ」が落札しました。セコム・新日本製鐵などが中心となり、SPC(特定目的会社)である「社会復帰サポート美祢株式会社」が設立され、受付、見張り、巡回、教育、清掃、給食の業務を民間が担当するという混合運営施設方式をとっています。
誘致に当たっては、地元では一部で不安からの反対運動もみられたそうです。しかし、その後は特に問題が生じたとの報道はなく、全国でも定員を超えた過剰収容の女子刑務所が続出する事態が生じていたことから、2011年10月に女子収容棟が増設されています。
このほかPFI方式の刑務所としては播磨(兵庫県)、喜連川(栃木県)、島根あさひ(浜田市)にも施設が設立されています。
刑務所は、NIMBYと思われていた施設が実はそうではなく、地元へのメリットも大きいとして見直された例です。
一方で、どうしてこれがNIMBYなの?という施設もあります。その例が保育園・幼稚園、公園、病院といった施設です。
待機児童問題から保育園の増設を求める声がある一方で、「うるさい」と苦情を申し立てる方もいらっしゃるようです。こうした声は高齢者に多く、子育て支援や少子化対策が急務な今、大変残念でなりません。また、病院でも感染症治療施設のある病院は近隣の方から嫌われる傾向があるようです。
我が家でも息子の入試本番前日に、家の前の細い道路上で近所のこどもたちが珍しく大声出して遊んでいて、怒鳴りたいのをぐっとこらえていました。確かにお気持ちはわかりますが、こどもは声を出して遊ぶのが当たり前です。
将来の高齢者の年金を負担してくれるのは、将来の納税者であるこどもたちです。病院についても、何かあったらすぐに救急搬送してもらえる点で、近隣の方、特に高齢者が恩恵を大きく受けるであろうことはいうまでもありません。こうした施設のメリットがデメリットよりもはるかに大きくいことをもっと広く知らしめていく必要があるのではないでしょうか。自治体も公園の近所の方の防音工事の費用を負担したり、病院も近隣の方を優先して診療するなどの配慮が必要かと思います。
特に少子化問題は、もはやなりふり構っている状況ではありません。財政負担が増えたとしても、あるいは高所得者を優遇する政策であっても、地域全体のメリットのためであれば、住民・納税者は納得・協力してあげないと取り返しのつかないことになってしまいます。
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