あちこち旅日記

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メディアが報じない中東の真実⑥:大岡越前候補サウジの顔をつぶしたハマス

 このシリーズ第四回目で、「大岡越前の不在が中東問題の解決を困難にしている」ことを投稿させていただきました。




 国内事情を抱える米国の仲介能力の低下が一番の問題ですが、大岡越前になってくれそうな国がないわけではありません。アラブの大国であり軍事・経済両面で事実上の「アラブの盟主」であり、OPEC最大の産油国であり原油市場の安定に責任ある行動をとっているサウジアラビアです。また、サウジは聖地メッカを抱え、イスラム教国でも最も需要な役割を果たしています。アラブ社会、イスラム社会の安定はサウジにとっても最重要事項であり。サウジへの期待は高まります。



 そのサウジも、脱石油依存への取り組みが急務になっています。高齢のサルマン国王に代わり政務を取り仕切るムハンマド皇太子は様々な批判を受けつつも、大胆な改革に取り組んでいます。
 
 サウジが水面下でイスラエルとの国交正常化交渉を進めていたことも公然の秘密になっています。アブラハム合意でイスラエルとの国交正常化を最初に踏み切ったのはバーレーンでしたが、同国の動きを見るとサウジの本音が見えてきます。


 バーレーンは湾岸産油国の一つで裕福な国でしたが、石油資源が枯渇する時期が他の産油国と比べて早期に到来するとみられています。こうした問題からバーレーンは国際金融センターとしての機能強化に取り組んできましたが、「アラブの春」での混乱を受けその地位をドバイに譲ってしまいました。財政赤字も肥大化し、サウジから融資を受け何とかつないでいる状況です。このため、サウジが重要な外交判断をする際に、バーレーンに先だって行動させ、アラブ社会の反応を見る傾向があることがよく知られています。


 最近では、イエメンの反政府武装勢力フーシ派が紅海を通航する船舶を攻撃していますが、米国が主導する多国籍軍にバーレーンが参加していることも注目されます。サウジはイランと長らく対立してきましたが、昨年中国の仲介で国交を正常化させています。その後、イランが支援するフーシ派との戦闘も収まっています。このため、フーシ派との直接的な対立を回避するためにバーレーンを立てているとみられます。


 また、実際にスーダンとイスラエルの国交正常化交渉では、過去に起きたスーダンでの米国大使館テロ事件の損害賠償が交渉の障害になりましたが、サウジが賠償金を肩代わりしたといわれています。


 同様に経済的に苦境しているパキスタンや、バーレーンと同様に石油資源の枯渇が近いとされ財政状況が厳しいオマーンにイスラエルとの国交正常化を促していたことも報じられています。


 ハマスとイスラエルの紛争終結後のガザ地区復興にもサウジの経済的支援が期待されているようです。サウジはイスラエルが恒久停戦に応じない限り、ガザ復興の支援はしないとしています(復興しても、また破壊されてしまえば意味がないので当然ですよね)。一方でロイターなどの報道では、サウジはイスラエルがパレスチナ独立国家を認めない限り、国交正常化には応じないとしています。しかし、これは裏を返せば、イスラエルがパレスチナ独立国家を承認すれば、イスラエルを国家承認し、ガザ地区復興を支援する、と言っていることになります。現実的に、このシナリオが紛争終結のために唯一実現可能な方策のように思えます。


 今回の紛争のきっかけとなったのは、ハマスによるイスラエル領内への攻撃と住民の殺害・拉致でしたが、多くの専門家は「サウジのイスラエル接近への牽制である」としてきました。しかしながら、結果的にサウジによるイスラエル承認を早めてしまう戦いをハマスが始めたことは理解に苦しみます。


 ハマスは、国際社会が賛同しているイスラエルとの「二国家共存」を認めていません。大儀のためには大岡越前になりえるサウジの顔をつぶし、多くの住民に死者が出ても構わないと考えているのであれば残念でなりません。しかし、合理的な判断能力をもっている指導者であれば、こうした行動を起こすことは考えられないところです。


 実はもっと裏で何かの別の力が働いている、と考えるべきなのかもしれません。いずれ、この件について改めて考察してみたいと思います。


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