あちこち旅日記

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メディアが報じない中東の真実⑦:イスラエルの敵は誰なのか?

 イスラエルとパレスチナの対立を見て、多くの方はユダヤvsアラブの対立と思っているのではないでしょうか。確かに、パレスチナの戦士たちは「アラブの大義」を掲げ、アラブ諸国の支援を期待しながら戦っています。しかし、これまでも指摘してきたように、ハマスは既にアラブでやっかいもの扱いされ始めています。


 そもそも、アラブの中でもヨルダンとエジプトはアメリカの仲介でイスラエルと平和条約を締結しており、裕福なアラブ産油国の中でもUAEとバーレーンは、アブラハム合意の当事国となっています。サウジ、クウェート、オマーン、カタールは外交関係はないものの、イスラエルと非公式な会話のチャネルは既に持っています。


イスラエルにとって敵はアラブではなく、イランの傀儡勢力
 実際のところアラブの国々でも、イスラエルと武力衝突を繰り返している勢力は、ハマス、ヒズボラ(レバノン)、フーシ(イエメン)といったイランからの軍事支援を受けている武装勢力、またはシリアやイラクにある親イラン民兵組織となっています。


 これらの国では、イスラエルと外交関係はないものの、少なくとも政府がイスラエルと敵対しているわけではありません。せいぜい敵対しているのはゴラン高原を占領されているシリアくらいです。しかもシリア政府軍は自国の内戦の対応が手一杯でとてもイスラエルと交戦できる余裕はありません。既に述べたように、パレスチナ政府を代表しているのは、PLOの流れをくむファタハであり、ハマスはパレスチナ政府から排除されています。


 レバノンでも経済は崩壊してしまっており、レバノン軍にはとても戦闘能力はありません。しかし、ヒズボラというシーア派武装組織は政府軍をしのぐ戦闘能力があるといわれています。ヒズボラは、公式に認められた政党で国会に議席を有する連立与党の一つですが、ハマスと同様に独自の軍隊を保有しています。しかも正規軍よりも強力な戦力を保持しているといわれています。すなわち・・党が国会の論戦に参加しながら、独自の軍隊を有しているという状況を想像していただければとご理解できるのではないでしょうか。中国共産党もこうした闘争(国共内戦)で第二次大戦ははさんで政権を奪取してきました。


 イエメンでもフーシ派と呼ばれる反政府組織は、国際的に承認されている政権と内戦を繰り広げています。イラクはかつてはイラン、米国とも戦争を経験しましたが、現在では米軍基地を受け入れるなど親米政策をとっています。このため、両政府ともイスラエルと戦闘する意思はありません。しかし、シーア派イスラム教徒が多数いることから親イラン派も多く、国内にはイランの支援を受けている親イラン派民兵組織があります。



 このため、イスラエルと対立しているのは、アラブでなくイラン(ペルシャ)であると言っていい状況にあります。


中東戦争の時点ではイランはイスラエルの友好国だった
 しかし、今でこそ敵対関係にあるイスラエルとイランですが、1978年から始まったイラン・イスラム革命までは中東戦争期間も含めて両国はむしろ友好関係にありました。


 イランは、ソビエト連邦の南側に位置するという地政学的理由もあり、アメリカの援助を受けるようになり、脱イスラム化と世俗主義による近代化政策を取ってきたことが背景にあります。


 皇帝(シャー)は、1963年に農地改革、森林国有化、国営企業の民営化、婦人参政権、識字率の向上などを盛り込んだ「白色革命」を宣言し、上からの近代改革を推し進めてきましたが、宗教勢力や保守勢力の反発を招いてきました。皇帝は、自分の意向に反対する人々を秘密警察によって弾圧し、近代化革命の名の下、イスラム教勢力を弾圧し排除してきました。このため、国民の中には反米主義者が増えていった事情があります。


 1978年1月に暴動が起きると皇帝は亡命。かつて皇帝によって国外追放を受け、フランス・パリに亡命していた反体制派の指導者・ホメイニ師が同年2月に帰国します。そして、同年4月には国民投票に基づき、ホメイニ師が提唱した「法学者の統治」に基づく国家体制の構築を掲げるイスラム共和国の樹立を宣言します。



 1979年11月には、イランアメリカ大使館人質事件が起こり、アメリカは1980年4月にイランに国交断絶を通告し、経済制裁を発動します。これを機に、イランの矛先はイスラエルにも向かい「アメリカの手先」としてイスラエルを敵視するようになりました。


ハマスのイスラエル奇襲にイランが関与していないのでは?
 このため、ハマスによる昨年10月7日のイスラエル攻撃の背景には、イランの関与があったとする見方が少なくありません。


 しかし、イランが今イスラエルを攻撃することによるメリットは全くありません。経済制裁に苦しむイランですが、かつて民主党・オバマ政権の時のアメリカは、核合意を締結し、経済制裁の緩和を進めようとしていました。この核合意を破棄し、経済制裁を再開したのがトランプ政権であり、再びトランプ氏がアメリカの大統領に返り咲くことがあれば、核合意の再構築と経済制裁の緩和は絶望的になります。


 ハマスのイスラエルへの奇襲は、国交正常化交渉を進めていたサウジへの牽制であったという見方も多いのですが、私はむしろ米国との関係正常化への関心を寄せていたイランに対してのハマスの牽制ではなかったと思っています。


 私と同じような見方をする専門家の方は残念ながらほとんどいません。しかし、イラン要人がイスラエルに対して批判的な発言をするものの、直接行動を起こすことはなく、むしろ、自制が目立ちます。レバノンのヒズボラによるイスラエルへのミサイル攻撃や、イエメンのフーシ派による紅海航行の船舶への攻撃が行われていますが、これはイランの指示によるものではなく、親イラン勢力が独自に行動していると思わないどうにも説明がつきません。むしろイランがこうした勢力の動きに当惑している様子すら感じます。実際に、2月12日には紅海とアラビア海を結ぶバベルマンデブ海峡でイランに向かっていた貨物船に対し、フーシ派がミサイル攻撃を行ったとの報道もあります。


 私が今回の黒幕がイランではなく、他にいるのではと考えるのはこのためです。では誰が黒幕なのか、次回(2月23日投稿予定)以降、考察してみたいと思います。


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