あちこち旅日記

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海外旅行の外貨調達論(上級編)

  以前、海外旅行時の外貨調達について、クレジットカードかキャッシングの併用が一番で、ドルとユーロ以外は現金両替しない方がよい、旨の記事を投稿しました。





 今回は、上級者向けにほかに有利な方法はないか、について採り上げたいと思います。それは「非公式な方法」の利用です。これはキャッシュオンリーなので、当然クレジットカードは使いません。


 もっとも、「非公式な方法」には2つの意味があります。一つは非合法の闇両替です。この場合は、ニセ札をつかまされるリスクがあるうえ、国によっては違法行為で逮捕される可能性があり、あまりお勧めできません。


 中には、添乗員さんやガイドさんが換えてくれるケースもあります。これはさすがにニセ札をつかまされるリスクは小さく、レートがよければ悪くはありません(もっとも、レートがよかった試しはあまりありませんが・・・)。一番安全なのが、使い残した外貨を持っている知人や帰国時の円が必要な現地の駐在員の方に両替していただくことです。国によっては、これも違法行為になりますが、日本での売買は取り締まれませんし、知人に密告されることはまずないでしょう。


 一方、国によっては合法的もしくは当局黙認で行われている非公式が外貨売買があります。こちらは、信用できる両替業者や商店などであればむしろ積極的に使うべきと考えます。


(注)これはイメージ写真です(闇両替業者のものではありません)


 ところで、闇レート(ブラックレート)とはどういうことでしょうか。一般には、正式な市場で取引されていないレートのことを言いますが、「市場レート」であることには変わりありません。別の言い方では「実勢レート」との言い方もあります。


「公定レート」VS「市場レート(並行レート)」
 「公定レート」とは政府(もしくは中央銀行)が定める為替レートのことを言います。しかし、それには様々な意味があります。例えば、国(中銀)が相場を固定しようとして示している目標水準の時もありますし、中央銀行が市中銀行と取引するレートを指している時もあります。また、政府予算や外貨準備の換算のために示している数字という意味で使われていることもあります。
 
 しかし、公定レートをいかに示したとしても、市場レートを当局が完全に操作することは困難です。
 
 市場レートを国(中銀)が完全に操作するには、無制限に為替介入を行う必要があります。しかし、通貨高を防ぐ介入はできますが(とはいえ弊害も大きいのですが)、通貨安を防ぐ介入は無制限にはできません。外貨準備の制約があるためです。古くは金本位制の時代に、米国をはじめとして各国が自国通貨と金を一定のレートで交換することにより固定相場制を維持できていましたが、金本位制の崩壊以降、固定相場制を維持できた国・地域は潤沢な外貨準備のある香港や中東の産油国くらいです。


 固定相場制の国では、中央銀行が生活必需品の輸入のために一定額の外貨を公定レートで放出していますが、外貨準備に制約がある国では全ての外貨需要を満たすことができません。このため、生活必需品の輸入以外のための外貨は、市場で実勢相場で入手する必要がでてきます。このため、市場レート(実勢レート)が公定レートと乖離していくことになります。このような外貨取引は当局も容認しているケースが多く、取引市場は「並行市場」、取引レートは「並行レート」と呼ばれることもあります。


複数の並行レートが存在する国も
 国によっては、中央銀行の外貨管理が多層となっているところもあります。レバノンやイラン、ベネズエラなどがこれに該当します。


 レバノンでは公定レートが1ドル=1507.5レバノンポンド(以下LBP)となっていますが、2020年の年初に外貨建て債務の不履行を起こしており、現在ではこのレートでは中銀は外貨を供給していません。一部の生活必需品の輸入に際しては、1ドル=8,000LBPで外貨を供給していますが、この優遇レートの適用を受けない通常の輸入や、海外への送金に際しては1ドル=40,000LBP前後が市場実勢レートになっています。


 さすがに中銀もこうした取引の実態を容認せざるを得なくなり、「サイラファ」というプラットフォームを設立し、ここでの取引レートが事実上の公定レートになっています。電話料金やクレジットカードの決済にはこのサイラファ・レートが適用されており、現在1ドル=30,100LBPとなっています。しかし、市場実勢とはかなり乖離があります。


 当然こんなレートで外貨を売却したい人などいません。両替店や商店も市場実勢レートに近い水準でないと取引は成立しません。アングラマネーの資金洗浄をしたい筋や、手数料を節約したい個人同士がSNSを利用して連絡を取り合い、闇取引を行うケースもあります。こうした闇取引も、非営利団体が運営するサイトで情報が提供されており、実勢レートが明らかにされています。


 レバノン中銀は、11月1日よりLBPの公定レートを1ドル=15,000LBPに切り下げると発表していますが、それでも市場実勢と大きく乖離しており、効果は疑問視されているようです。


クレジットカードを使うリスクが大きい国もある
 ところで数レートが存在する国、公定レートと闇レートの乖離が大きい国では、クレジットカードを使用した場合の外貨換算レートに注意する必要があります。もし、決済レートが市場実勢レートとかけ離れている場合(当該通貨が割高な場合)、「コーラ1本3,000円」といった事態になりかねません。よく、国ごとの物価比較で、異常な物価高とされる国がありますが、これは実勢と大きく乖離した換算レートで計算されていることによるためです。
 
 こうした国では、決済レートがどうなっているか、事情に詳しい方(例えば知り合いの現地駐在員や添乗員さん)などに確認しておくことは必須です。また、こういった国では、ドルやユーロが決済単位として使わていることが多いですが、ドルやユーロとの換算レートが何に基づいているかも確認しておく必要があります。


 上述のレバノンのケースでも、市場実勢レートが1ドル=約40,000LBPであるのに対して、クレジットカードの決済レートは1ドル=30,100LBPと大きく不利になっています。こうした国では、信頼のできる場所で現金への両替をした方がお得です。



ドル紙幣を持っていった方がよい国もある
 為替レートが急落し、実勢レートと乖離が大きい国では、自国通貨の信認が低下し、外貨による決済が行われる国(ドル取引が多いので、「ドル化経済」と言われます)では、ドル紙幣を持っていた方が便利なことがあります。ドル払いすれば両替が手間が省けるうえ、インフレで通貨価値が下落した国でものすごい量の札束を持ち歩く必要もなくなります。ただし、レートに無知な観光客が不利なレートで換算されてしまう可能性があるため、定価販売しているお店以外は注意が必要です。


 なかには、外貨建てで値段を表示していながら、法律などを盾に現地通貨での支払いを求めてくるケースもあります。もし、外国人が外貨でのカード決済を選択すると外貨→現地通貨、現地通貨→外貨と二重に為替差が発生してしまい、さらにこの換算率も結構大きく(これは初級編でも解説しています)、100ドルのはずが120ドルを請求されなど、トラブルになることがあり注意が必要です(私の知人はフィリピンでホテルのマネージャーともめて大喧嘩になったとのことです)。


 また、ドル化している国にドル紙幣を持参する場合に注意することがあります。それは、額面が大きい紙幣を避け、1ドル札などの少額紙幣を多くすることです。100ドル札などは、ニセ札のリスクがあるため、受取を拒まれることがあります。また、場合によっては「おつりがない」ということで切り上げての支払いを要求さレたり、現地通貨で返されることもあります。かつて、ベトナムではドル払いが一般的で(違法行為でしたが事実上黙認されていたようです)、私は渡航時に1ドル紙幣を100枚くらい用意していったものでした。
 
 一方、経済が安定していても日本で通貨の入手が困難な国(日本人が滅多にいかないような国)では一旦ドルに両替して、現地でドルから両替した方が日本での両替や現地での円からの両替よりも有利なことが多いことを前回指摘しました。その場合、額面が小さい紙幣よりも額面が大きい紙幣、使い古した紙幣よりも新札の方がレートがよいことがあります(今は行く方はほとんどいないと思いますが、ミャンマーでは100ドルの新札とそれ以外では銀行の両替レートが違ってきます)。こうした事情は、事前の調査が重要です。


二重通貨制度の国


 一つの国で複数の通貨が存在する国があります。かつての中国、ミャンマー、キューバがその典型です。


 中国やミャンマーのそれは、外貨兌換券(FEC)と言われ、外貨から転換した証明になる証書で、事実上の通貨として機能していました。FECの目的は、外貨管理と、国民と外国人の消費市場での分離にありました。貴重な外貨の流出を防ぐために、国民に輸入品の購入をさせないために、輸入品が売られている外貨ショップや、外国人専用のホテルの支払いをFECに制限したものでした。また、外国人に割増料金を取る観光施設もあり、FEC払いをする人を外国人と認識するのにも役立ちました。


 下の写真で左が人民元、右がFECの1元です。人民元は中央銀行である中国人民銀行の発行ですが、FECは為替銀行(現在は4大商業銀行の一つ)である中国銀行の発行になっていました。


 中国では人民元もFECも価値は同じということが建前でした。香港に隣接する広東省では、香港ドルが通用していましたが(違法でしたが、当局黙認でした)、そこでの換算レートもFECと香港ドルとの間の公定レートが使われていました。


 しかし、市場実勢では、90年代前半には人民元vsFECの価値は1対1.6くらいでした。中国人がFECを入手するのは難しいため、外貨ショップで買い物をしたい中国人は、外国人向けに商売(いかがわしい商売を含め)をするか、外国人をつかまえて闇両替をしていたわけです。もちろんこれは中国では厳違法行為でした。


 しかし、92年頃から中国本土系の銀行の香港支店が、市場実勢レートで人民元の両替を始めました。香港は当時英国の植民地でしたから、中国当局の規制が全く及ばなかったわけです(今でも「一国二制度」下で香港の金融監督権は中国当局は持っていません)。私も、大陸への旅行や出張の際、このレートで人民元を入手して、お得な旅をしたものです(もっとも使えるのはローカルタクシーやローカル向けの露店くらいで、外国人向けのホテルやレストランではFECオンリーでした)。もっとも、人民元で払ってもなぜか外国人だとわかってしまいまでしたが・・・。


 ミャンマーでは通貨チャットのFECは米ドルと等価とされ、300ドルの強制両替が外国人に義務付けられていました。しかし、闇市場では米ドルはFECの2割増しの価値でチャットと交換されていました。2013年にFECは廃止になっています。


 キューバも同様な制度で、外国人が使うペソは兌換ペソ(CUC)、国民が使うペソは人民ペソ(CUP)と呼ばれていました。ただし、価値は等価ではなく、公式にCUP:CUC=1:24となっており、一方でCUCは米ドルとほぼ等価で交換されていました(米国と断交していたため米ドルの支払いが禁止されているのにもかかわらず)


 もっとも、私が2015年にキューバを訪問した際には闇レートでの両替を持ちかけられることはありませんでした。外貨不足・モノ不足のはずのキューバでこの安定は不思議に感じました(私の調査不足だったかもしれませんが、ハバナ市内では十分CUCが流通していました)。このCUCですが2020年末で廃止され、現在ではCUPに統一されています。中国と違って経済制裁下で外貨不足・モノ不足の状態が続いているキューバで今後闇市場が広がっていくのか、注目しているところです。


 かつての東独でも、東独マルクと西独マルクは公式には1対1とされ、外国人には強制両替が行われていました。当時の西ベルリンでは、東:西で1:4のレートが定着しており、西ベルリンの両替店では堂々とこのレートで取引が行われていました。


 私は1985年に西ベルリンから東ベルリンに入りましたが、東独帰りの日本人から使い余した東独マルクをこの実勢レートで入手したことがあります(その時はお互いにメリットと思っていました)。結果的にさほどの金額ではなかったので良かったのですが、使いたいものが全くなく、使い切るのが大変でした。これは物価が安いからではなく、モノ不足によるものです。ハトの糞が落ちてきてくるようなカフェのテラス席でまずいコーヒーを飲んだり、入場料が高い電波塔に登ったり、一番高級そうなレストラン(でも料理は大したことはない)を見つけて何とか使い切りましたが、20マルク程度の強制両替分ですら使い切るのに苦労しました。


 外国通貨がそのまま使える国もあります。マカオでは通貨パカタと香港ドル、ブルネイではブルネイドル(リンギ)とシンガポールドルと1対1の固定レートになっており、それぞれ香港ドル、シンガポールドルが使えます。しかし、香港ではマカオパカタは使えません。一方、シンガポールではブルネイドルが使えるそうです。私はシンガポールでタクシーのおつりでブルネイドルを受け取った際、これを知らずに「つかまされた」と勘違いてしまいました。その時は「記念に」と思って持ち帰りました。


 英国でもスコットランドでは、スコットランド銀行が独自通貨を発行しています。スコットランドではイングランド銀行の紙幣は喜んで受け取ってもらえますが、その逆は嫌がられます。スコットランドで、スコットランド銀行の紙幣をおつりで受け取ったらすぐに使ってしまいましょう。


 香港では、中央銀行が紙幣を発行しておらず、香港上海銀行、スタンダード・チャータード銀行、中国銀行の香港法人の3つの銀行が紙幣(厳密には債務証書)を発行しています。これはどの銀行のものでも通用しているので問題ありません。色で区別できるので混乱することはありません。


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