灼熱の都心で涼を求めて庭園へ（最終回）：清澄庭園（江東区）

2023/10/01 05:13

　庭園シリーズの最終回は東京都江東区清澄にある都立清澄庭園です。東京メトロ半蔵門線および都営大江戸線の清澄白河駅下車すぐの場所にあります。

　江戸時代の大名庭園に多い泉水、築山、枯山水を主体にした「回遊式林泉庭園」で、東京都指定名勝に指定されています。

（出所）公益財団法人東京都公園協会

　この地の一部は江戸の豪商・紀伊國屋文左衛門の屋敷跡と言い伝えられていますが、享保年間（1716～1736年）には、下総国関宿の藩主・久世大和守の下屋敷となり、その頃にある程度庭園が形づくられた模様です。

　1878年（明治11年）に、三菱財閥の創始者・岩崎弥太郎が、荒廃していたこの邸地を買い取り、社員の慰安や貴賓を招待する場所として庭園造成を計画、1880年（明治13年）に「深川親睦園」として一応の竣工をみました。弥太郎の亡きあとも造園工事は進められ、隅田川の水を引いた大泉水を造り、周囲には全国から取り寄せた名石を配して、明治の庭園を代表する「回遊式林泉庭園」が完成しました。

　同様な方法で東京湾の潮の満ち引き利用し、眺めの変化を鑑賞する庭園としては、先週紹介した旧安田庭園、浜離宮恩賜庭園、旧芝離宮恩賜庭園があります。

　3つの中島を配した大泉水。昔は隅田川から水を引いていて、潮の干満によって池の景観が微妙に変化したといわれています。

　水鳥や亀がたくさん泳いでいます。

　この庭園で最も標高が高い富士山。関東大震災以前は山頂近くには樹木を植えず、サツキやその他のツツジ類の灌木類を数列横に配して、富士山にたなびく雲を配したと言われています。

　清澄庭園は、関東大震災で大きな被害を受けましたが、この時図らずも災害時の避難場所としての役割を果たし、多数の人命を救いました。岩崎家では、こうした庭園の持つ防災機能を重視し、1924年（大正13年）に破損の少なかった東側半分（現庭園部分）を公園用地として東京市に寄付し、市ではこれを整備して1932年（昭和7年）に公開しました。

　また、1977年（昭和52年）には、庭園の西側に隣接する敷地を開放公園として追加開園しました。ここには芝生広場、パーゴラなどがあります。また、サクラの木が20 本ほど植えられ、春のお花見の場となっています。なお、庭園の方は、1979年（昭和54年）に東京都の名勝に指定されています。

　全国各地の名石が配置され、石庭の様相を呈しています。

　池の端に石を点々と置いて、そこをあるけるようにした磯渡りが随所にあります。

　1928年（昭和3年）、大正天皇の葬儀に用いられた葬場殿を移築した大正記念館。なお、最初の建物は戦災で焼失（1945年）してしまったため、1953年（昭和28年）に貞明皇后の葬場殿の材料を使って再建。1989年（平成元年）に全面改築され、現在は集会施設として利用されています。

　池に突き出るようにして建てられた数寄屋造りの建物は涼亭です。1909年（明治42年）に国賓として来日した英国のキッチナー元帥を迎えるために岩崎家が建てたもので、震災や戦災をまぬがれてきましたが、1985年（昭和60年）に全面改築工事を行いました。現在集会施設として利用されています。2005年（平成17年）には「東京都選定歴史的建造物」に指定されました。